愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

蛸章魚願開運陰陽抱叶

獅子文六『娘と私』にはこんなくだりがある。
 
「あまり夫婦がご無沙汰すると、仲が悪くなるといいますから私の方から、押し掛けるかも、知れません、よろしくて?」
 
戦前の夫婦関係のことはよく分らないが当時の婦人雑誌には、
 
「中年の妻は赤い長襦袢を着て良人を刺激すべしとか、香水を閨に撒けとか、そんな記事が、沢山出ていた時代で」
 
とあるが、昭和の初期でもそんなことが普通に書かれていたことに驚く。
妻からの申し込みに対して文六先生は!
 
周章狼狽をも、感じた。夜半の来訪を試みられても、それに応じる自信がまったくない」
 
と感想を述べている。
妻に対してはこんな言い訳を。
 
「決して、愛情の問題と、関係ないんだよ。中年の男には、そういう現象が、よく、起きるんだそうだよ。頭脳労働者には、殊に、それが、甚だしいそうだよ」
 
ところ変わって、武田百合子『日日雑記』には、福縁日で見たことが書かれている。大小三百余の絵馬の中で気に入ったものとして、
 
『蛸章魚願開運陰陽抱叶』
 
なる文字と、二股大根が二本組み合わさっている絵柄の絵馬。
名前はなく、ただ43歳とだけあった。
つまりは自信を失いかけた性への問題を回復しようと男性が祈願した絵馬らしいが、百合子は男性の性の難関を43歳ぐらいと推定しているが、どうだろうか、ちと早いような気もするが・・・
いつの時代も『男はつらいよ』でしょうか。