愛に恋

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石井鶴三と『大菩薩峠』

未完に終わった我が国の小説で有名なものと言えば、第一に漱石の『明暗』だろうか。
林扶美子の『めし』も著者死亡で結末を見なかった。
大河小説では大佛次郎の大作『天皇の世紀』が有名だが、更に忘れてはならない大長編に中里介山の『大菩薩峠』がある。
何と1913年~41年に渡って書き継がれた一大巨編で全41巻、それでも完結しなかった。
一体、中里介山は存命中、この結末をどうしようと思っていたのか、いずれにしても未完に終わってしまうのは本人が一番無念に思っていることだろう。


ところで、その『大菩薩峠』だが、新聞連載時は画家の石井鶴三が挿絵を担当していた。
例えばこんな作品がある。
            『縊死者』

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後に石井は挿絵を1冊にまとめ『石井鶴三挿絵集第一巻』(光大社、昭和9年)として刊行したが、それが介山の癇に障り「挿画は画家の作に非ず、本文の複製なり」とクレームをつけ、出版社と鶴三を告訴し、約10年に渡って争っていたらしいがその間、介山と鶴三はほとんど絶交状態。
結果は石井の勝訴に終わったらしいが、昭和初期、挿絵の著作権は曖昧だったということになるのか。