東京・芝浦海岸納涼祭の帰り道で、その時、同道していたのが里見 弴、二人の付き合いは60年はあっただろうか。
療養のために訪れたのが城崎、或いはこの怪我がなければ名作『城崎にて』は書かれることがなかっただろう。
文庫でも岩波と講談社文芸文庫だけが扱っている。
だが『安城家の兄弟』は絶版で古本屋でもよほど運が良くなければ巡り合えない。
著者里見弴は通俗小説に手を染めたが故に、その芸術的価値が下がったとも言われているが、どうしてどうして彼が残した長編はどれも面白い。
昭和4年から6年にかけて書かれたこの本は「上・中・下巻」の自伝的小説で、兄武郎の心中事件についても触れており、事件の概要を知る手がかりとしてもお薦め、同じ心中事件でも太宰のそれと比べ有島の場合は事件を扱ったものはかなり少ない。
私は、有島武郎心中事件の経緯と、それを知った兄弟たちの対応が知りたくて本書を探し出したが、さすがに事件を未然に防ぐことが出来なかった無念さが伝わってきた。