名作『しろばんば』『あすなろ物語』もいいが『氷壁』は素晴らしい。
いつだったか、井上さんの死後、伊豆の生家を訪ねたことがあった。
或いは、今少し長命ならばノーベル文学賞を受賞したかも知れないというほどの人だったが、2012年3月の読売新聞取材によると、ノーベル委員会のペール・ベストベリー委員長の証言から、安部公房は「急死しなければ受賞していた」というほど賞に迫っており、井上靖も有力候補として「真剣に討論されていた」ことが明らかになっていると発表されたことで溜飲が下がった思いだ。
他に、谷崎潤一郎、三島由紀夫、井伏鱒二、遠藤周作の名も散見されるが、賞は獲らなくとも優れた日本文学が世界に紹介されるのは素晴らしいことだ。
私が薦めるこの『氷壁』、1956年2月24日から57年8月22日まで朝日新聞に連載された名作で、前年に起きた山の遭難事故を扱ったもので、関係あるかどうかは知らないがダーク・ダックスにこんな歌ったこの歌詞を聴いていると、小説と似通ったものを感じるのだが。