愛に恋

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インディアスの破壊についての簡潔な報告 ラス・カサス

 
人間とはいったい何なのか?
韓非子のいう、
 
「君主と人民の利害は相反するゆえ、人民を法で規制すべきこと」
 
即ち法治国家こそ人類には必要な制度ではなかろうか。
つまり、荀子(じゅんし)の言うところの性悪説の立場を取っている。
 
人間の本性は悪なりとする説で、人の欲望は自然のままに放置すると社会を破滅させる原因となる、ゆえに欲望は悪であり、これを礼によって整え、社会秩序を維持せねばならないと。
孟子が唱える性善説の対局で徳川武家政権は、天下国家を平安にする為、孟子理念を根幹に儒教の中心的思想を教え、宋の朱子学性善説を根底にして構築されている。
 
しかし、幕藩体制にあっても北町奉行遠山金四郎なり火付け盗賊改め長谷川平蔵は必要なのだ。
もし、この世に法律も警察もない国があったとしたら人間は性善説などと言っておられようか。
 
その例が忌まわしき新大陸発見ではないかと昔から思っている。
果たしてコロンブスは発見者が侵略者か。
譬え新大陸発見が必然的なことであろうと、コロンブス以降にやって来たスペイン人は欲に目がくらんだ残忍で人面獣心な人間で、これこそ唾棄すべき人間の典型ではなかろうか。
 
一体に、ローマ法王庁スペイン王カルロス1世とその子、フェリペ2世は大陸でのスペイン人の所業を何と思っていたのか。
これではスペイン人が世界で一番残忍な人間と思われても仕方あるまい。
ヒトラースターリンの比ではない。
本書はカトリック司祭ラス・カサスの見聞を元に、新大陸で植民政策の中、先住民がいかに凄惨な残虐行為の中、殺害、いや、殺戮されたいったかを訴えている。
 
これまでに『日本残酷写真史』『世界死刑史』『世界拷問史』などを読んだことがあるが、殊にヨーロッパの暗黒時代、どれだけ拷問の機器が考案されてきたか、専門のチームなどが作られ、如何に苦痛を長引かせるか、それはもう言語に絶するありとあらゆることが試されてきた。
あまり細かくは書かないが一例だけ上げると、同じ火あぶりでも一気に焼くのではなく、とろ火で徐々に焼いていく手法。
 
長々と余分な事を書いてしまったが、つまりは新大陸は無法地帯で何をしてもお咎めがない。
著者ラス・カサスは至る所で目撃した残虐行為を何とか告発しようと纏められたのが、この報告書になる。
報告書そのものは拙い書き方だが、カピタン率いるスペイン人が集落を破壊、首領を火あぶり、インディオに対し拷問、強姦、暴力、切り刻む凄惨など殺戮を繰り返していく。
 
記録によるとエスパニョーラ島では住民300万のうち生き残ったのは僅かに200人とある。
キューバ島では人が絶え、ジャマイカは荒廃し見る影もないと期され、60以上あるパナマ諸島では50万人以上の人が住んでいたが今は誰もいないという。
これは、現代人が想像する以上の殺戮が行われたことを意味している。
つまりは絶滅させるのが目的と取られても仕方ない。
ラス・カサスは断言する!
 
この40年間でにキリスト教徒たちの暴虐的で極悪無慙な所業のために男女、子供合わせて1500万人以上のインディオが犠牲になったと言っても、事実過言じゃない。
 
当時はまだ鉄砲がなく、武器といえば槍、剣、火で、それで殺すとなると凄惨極まりない。
カサスはあらゆる集落で「身の毛もよだつ」方法でと繰り返しているが、スペイン人はゲームのように殺していったのだろうか、インディオを人と見なしていないから、そのような残虐な行為を行い得たのだろう。
 
特質すべきはインディオは決して戦闘的な人たちではなく、スペイン人に対し友好的に水、食料、金などを持参して歓迎したが、対するスペイン人は拷問によって金の在りかを白状させ、侵入する先々で住民を皆殺しにする行為は最早、人間とは言えまい。
時には納屋に住民を押し込め火をかけ焼き殺す。
もう繰り返しカサスは同じ事を書き続ける。
 
人間は生まれる時代が違えば、誰とても残忍にも為り得るのだろうか。
例えばこも私でも。
いや、これを読んでいるアナタでも。
私が常々疑問に思うのはただその一点に尽きる。
彼等とて国に帰り結婚すれば普通の親になり我が子を可愛がる、そこがどうも解らない。
しかし大陸でインディオ達はある日突然に言われる。
 
「王に仕えよ。さもなくば、おまえたちはずたずたにされると心得よ」
 
今までに見聞きしたこともない見知らぬ王にである。
従わなければ奴隷、拷問、過酷な労働、こんな理不尽なことが本当にまかり通っていた。
当時のローマ教皇はアレクサンデル六世とあるが、一体この事案をどう思っているのか。
中南米諸国の王国を総て滅亡にと追いやり、カトリックの教えに従わなければ殺してしまえってか!
我が国では内閣が代わるたびに、お隣から「謝れ、謝れ」と言われ続けているが、果たしてスペインではアステカやインカ文明を滅ぼしたことに関して何か謝っているのだろうか。
 
カサスは1514年から他界する1566年まで、6回にわたり大西洋を横断し、インディオの自由と生存権を守る運動の中心的役割を果たし、彼は何より平和的な方法によるインディオキリスト教化こそがスペイン国王の最大の任務と考え、国王カルロス五世に謁見して、インディオの蒙っている不正とスペイン人の非道な所業を即時中止するよう訴えた、その報告書が即ちこの本ということになる。
それは1552年のことらしい。
 
最後に、本書を通じて初めて知ったが、カサスには『インディアス史』という著書があり、これが岩波文庫全7巻というから驚く。
怖いのは、もし古本市でこれを見つけた時に買ってしまうのではという私の本能を恐れる。
 

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