愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

紅梅 津村節子

 
吉村昭さんが亡くなったのは平成18年7月31日。
私にとっては突然の訃報で驚いた。
記録文学の第一人者として数々の名作を世に送り出し、私も愛読者のひとりとして本当にお世話になった。
以下、ざっと読んだ本を列記してみると
 
冬の鷹
ふぉん・しいほるとの娘
幕府軍艦「回天」始末
ニコライ遭難
天狗争乱
アメリカ彦蔵
敵討
海も暮れきる
白い航跡
生麦事件(上・下)
黒船
 
本書の著者は夫人の津村節子さんで、この本は菊池寛賞を受賞している。
津村節子氏も著名な作家だが、二人は全く稀有な存在で、揃って日本芸術院会員、他にこんな夫婦はいるだろうか?
 
吉村さんの創作方法は、関連文献を渉猟するだけではなく、関わりある場所をくまなく歩き廻り関係者から証言を得る緻密な作業で、司馬さんに継いで好きな歴史作家だった。
 
文中、「物を書く女は最低な女と言われている」なんて出てくるが、奥さんの方も執筆活動で忙しく家事を疎かにするということを言っているのであろう。
または「一つ屋根の下に、物を書く人間が二人いるのを、先輩作家が、地獄だなあ」とも言われたとか。
 
それにしても人気作家ともなるとスケジュールは大変だ。
講演依頼、各文学賞選考委員、作家仲間の文学賞記念会、取材、連載、原稿の締め切り。
芸術院会員でもあるから、両陛下が芸術院行幸啓される芸術院授賞式のお出迎えもしなくてはならない。
 
そんな吉村さんが舌の痛みを訴えだしたのが2005年の1月、舌癌を発症し、その後、膵臓にも転移、最期まで周囲には病気のことは隠しておられた。
闘病中、次々と亡くなっていく先輩作家や恩人を見送りながら、ご本人もかなり苦しんでおられた由。
最期は決して安らかなものではなかったが、献身的な奥さんの愛情を通して吉村さんの晩年を読むことになるとは思わなんだ。
残された膨大な書籍は今後とも読み継がれ後世に残っていくことを願う。
 
余談だがICUに長く居ると、ICU症候群になると書かれていたが本当だろうか。
私も一度、ICUに入ったことがあるが、その折、誓約書を書かされたのはそのためだったか。
 
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