愛に恋

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フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか 浦久俊彦

神童とは恐ろしいものだ。
8歳リストは楽譜を一目見ただけで、信じられないような正確さでピアノを弾いたとか。
そのリストに付いて私が知り得ることは殆んどないが「リストは19世紀音楽の縮図だ」という言葉があるほど偉大な人物らしい。
しかし、時を同じくしてポーランドにもう一人の神童が現る。
 
ピアノ史上最強のライバルとされたショパンの出現。
ビヨン・ボルグとジミー・コナーズのような関係だろうか。
それにしてもリストの超人的なエネルギーは凄い。
 
1839年からの8年間でこなしたコンサートの数、ウィーンを皮切りにコンスタンチノープルまでのヨーロッパ・ツアー、260都市を回り延べ1000回の公演。
鉄道のない時代、6頭立ての馬車で全ヨーロッパを周遊するなど気の遠くなるような話しではないか。
 
超絶な技巧と類稀な美貌で「リスト・フィーバー現象」を起こし世界の女性を虜にした。 
 
 
妻となったマリー・ダグー伯爵夫人との往復書簡の数も半端ではない。
現存するだけでも562通、登場人物は実に1200人を超えるとか。
知人友人には年間1000通もの手紙を出し曲も書きに書いた。
 
リストの曲を不眠不休で演奏すると約122時間。
それを全部弾いてCD化した人がいるというからまた驚く。
全99枚のCDに収められ個人録音の記録としてはギネスに認定されている。
 
あたりまえのことだがリストの時代、演奏されなければ音楽は存在しない。
レコードがない時代にあっては、街に出たからといって、どこからも音楽は聴こえてこない。
上流階級のサロンやコンサートに行かなければ音楽は聴けない。
 
つまり音楽は「現在」でしかなかったと作者は書いている。
そうか!
つまり音源を残せないから過去の音楽を誰も知らないというわけだ。
当時の音楽家は自分が作曲したものしか演奏しないから、過去の音楽は楽譜として残っているのみ。
 
それを掘り起こし広くヨーロッパに「過去」の音楽を始めて紹介したのがリストだという。
バッハやベートーベン、モーツァルトハイドンがどれだけ偉大でも、誰かが演奏してくれなければ知らない音楽になってしまう。
なるほど、確かに。
 
今ではありふれたリサイタルという催しを考案したのもリスト。
1839年3月8日、ローマで行われたピアノ・リサイタルは聴衆とピアニストだけという前代未聞の企画でリスト以前にはなかった。
 
それにしても天才同士の交流は読んでいても緊張感を孕む。
12歳のリストが53歳のベートーベンを前に演奏して感激させたことや、ショパンとの連弾。
リストの娘コジマとワーグナーの結婚。
同時人の天才たちの生まれは、
 
ベルリオーズ         1803生
ショパン      1910
シューマン     1810
リスト       1811
ワーグナー     1813
ヴェルディ     1813
 
1歳違いのショパンとリストが同じステージで演奏する、そんなことが実際にあったわけだ。
リストの願望は音楽、文学、絵画という芸術の枠組みを外し、調和的に融合させることだったとか。
天才に生まれるということが、どういうことなのか解りかねるが、人類は天才を必要としていることは確かだ。
 
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