愛に恋

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マラーを殺した女 安達正勝

 
副題として『暗殺の天使シャルロット・コルデ』というタイトルがある。
端的に言えばこの絵が全てを象徴している。
 
 
                                 ジャック=ルイ・ダヴィッド作『マラーの死』
 
殺害されているのはマラでもマーラーでもない。
フランス革命の指導者ジャン=ポール・マラーである。
事件は1793年7月13日夜、マラーの自宅で起きた。
大胆にもパリの自宅に押し掛け、二度目の訪問で面会が叶い、浴槽に浸かるマラーの胸を一突き。
 
共犯者はなく、25才になろうとしていたシャルロット・コルデなる、うら若き美貌の女性の犯行だった。
 
 
4日後の17日、革命裁判所法廷で死刑宣告を受け即日処刑、執行方法は勿論ギロチン。
時に、私はフランス革命に関して、あまり詳しくない。
いつか勉強したいと思っているが、その教材として佐藤賢一氏の『小説フランス革命 文庫版 全18巻』を目標にしているのだが、果たしてそんな日が来るのだろうか。
 
小説フランス革命 (1) 革命のライオン
小説フランス革命 (2) パリの蜂
小説フランス革命 (3) バスティーユの陥落
小説フランス革命 (4) 聖者の戦い
小説フランス革命 (5) 議会の迷走
小説フランス革命 (6) シスマの危機
小説フランス革命 (7) 王の逃亡
小説フランス革命 (8) フイヤン派の野望
小説フランス革命 (9) 戦争の足音
小説フランス革命(10) ジロンド派の興亡
小説フランス革命(11) 八月の蜂起
小説フランス革命(12) 共和政の樹立
小説フランス革命(13) サン・キュロットの暴走
小説フランス革命(14) ジャコバン派の独裁
小説フランス革命(15) 粛清の嵐
小説フランス革命(16) 徳の政治
小説フランス革命(17) ダントン派の処刑
小説フランス革命(18) 革命の終焉
 
とまあ、こんな内訳だが、まったく気が遠くなるような話だ!
とにかく今はマラーのことだ。
フランス革命といえばジャコバン派ジロンド派の権力闘争だが、マラーはダントン、ロベスピエールと並び称される大指導者で、なぜ、シャルロットはマラーを暗殺しなければならなかったのか。
そこが難しいのだ。
マラーの主張を聞こう。
 
私はいつも思い浮かべ、これからもずっと思い続けるに違いないただ一つのことは、人夫・職工・貧窮者、ひとことで言えば、革命においてすべてを失い、、しかも、欲得づくの立法者たちが市民の列から除外した人々が、革命をいつも変わることなく支持してきた唯一の人々である、ということである。
 
ふう、別に悪い発想とは思わぬが。
更に言う。
 
革命の火から自由が出現してくるのが見られる。
 
1793年9月、マラーは国民公会議員に当選、しかし、国会議員になってもマラーへの迫害は続くとある。
どうも、反対派勢力に対し痛烈この上ない糾弾の声を浴びせかけてきたらしい。
マラーはダントン、ロベスピエールと共にジャコバン派に属するが敵対するのがジロンド派
中産ブルジョワジーの代表がジャコバン派で大ブルジョワジーの代表がジロンド派と解釈されてもらえばいい。
革命の主導権をめぐって争ってきた両者の対立が頂点に達したのが1793年5月。
 
本当に小難しいフランス革命だが、勉強のためにも長くなることを覚悟で書かざるを得ない。
 
前年4月、フランスはオーストリアに宣戦布告、これがやがて対ヨーロッパ戦争に突入、根本原因は、共和国フランスと周りの諸王国との政治的対立、イギリス資本主義とフランス資本主義との経済的対立。
革命の主導権を握っていたジロンド派が戦争を始めた意図は二つ。
 
・革命の激化を避けるため、戦争によって国民の関心を外にそらす。
・戦時需要によって経済に活を入れ、戦時物資を供給する大商人の利益を保護する。
 
しかし、結果はジロンド派が意図していたものとは、まったく正反対の方へ行ってしまった。
祖国が危機に陥ったことを感じたパリ市民は、外国の軍隊と呼応して革命を圧し潰そうとしていた国内の敵、反革命勢力に対する警戒心を強め、革命闘争はさらに激化。
それに加えて、全国的に食料事情が悪化、しかし、物そのものが存在しないわけではなく、投機や買い占めなどによって暴利を貪っている悪徳商人たちに対し、断固たる処置を取るよう再三にわたって国会に要求したが、国会では一向に急ぐ様子がない。
武装蜂起も辞さない民衆が国会に突き付けた要求は二点。
 
・買占め・投機などを行っている悪徳大商人の利益を擁護するジロンド派の有力議員を国会から追放すること。
・生存を維持するのに欠くことのできない必要最小限度の品目については、最高価格法を制定すること。
 
しかし、大ブルジョワジーの代表であるジロンド派にとって商人の利益を守るのは死活問題、とても出来ない相談で残るは武力弾圧。
だが、パリ民衆の武装蜂起がもはや避けられない状況に立ち至ったとき、ジャコバン派は、民衆と手を結んで宿敵ジロンド派を打倒することを決意。
そして革命の主導権はジャコバン派の手に。
こうして、ジロンド派の有力議員31名が国会から追放される。
これが所謂「5月31日ー6月2日事件」と言われるものらしいが、シャルロットがマラーに注目するのは、この事件が契機らしい。
 
追放されたジロンド派はシャルロットの住むカーンに到着、彼らの話を聞くうちに悲憤慷慨したのか、独り、狙いをマラーに定める。
バルザックはこんなことを言っている。
 
自分が置かれた環境の中で、自分の考えを隠し続けることほど精神力を鍛えるものはない。
 
シャルロットは誰にも相談せず、何の後ろ盾もなく強い意志でマラー暗殺を考えたようだ。
パリに着いたシャルロットは早速、マラーに手紙を書く。
ジャック=ルイ・ダヴィッド作『マラーの死』で左手に持っているのが、その手紙だがそれにはこのように書かれていた。
 
マラー様、私は今朝、あなたにお手紙を書きました。お受け取りになりましたか。
ほんの少しの間、お目にかかれることを期待してよろしいでしょうか。もしあなたが私の手紙をお受け取りになったのでしたら、事の重大さからみて、あなたは私をはねつけたりはなさらないだろうと思います。私が非常に不幸な女だというだけでも、あなたの庇護を受ける十分な権利があります。
 
そして意を決しシャルロットはマラーの家を訪問。
入口で訪問を断る妻と押し問答をするうち、それを聞きつけたマラー本人が入室を許可してしまった。
絵にあるように浴槽に入っているのは、漸進的な悪性の皮膚病に悩まされていたマラーは、水風呂に浸かってしか仕事ができない状態にあったためらしい。
 
すっかり気を許し話を続けるマラーに対しシャルロットの一撃は、第一肋骨と第二肋骨との間を斜めに深く刺し貫き、肺動脈を切断し刃は柄のところまで突き刺さっていた。
マラーさえ殺せばフランスに平和が訪れ、祖国は救われるとういシャルロットの固定観念は処刑の日まで微動だにしなかった。
元より死は覚悟の上、それ故、強靭な意思も保ち続けることが可能だったのだろう。
 
マラーとシャルロットの物語はこれで終わるが、フランス革命はまだ継続しており、ナポレオンの登場は先の話。
先に戻って佐藤賢一氏の『小説フランス革命 文庫版 全18巻』が読める日が果たして来るのだろうか、読めないような気がするが。
 
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