愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

古本道場 角田光代・岡崎武志

 
 自称、神保町系ライターと言うぐらいの古本道の達人、岡崎武志氏に弟子入りした女流作家、角田光代の古本道入門書とでも言ったらいいのか。
師匠の支持の下、神保町、早稲田、荻窪、鎌倉、そしてウルムチ、ウィーン、ブタペスト、ベルリンと古本を求め、その魅力に開眼していく様が何とも頼もしい。
 
旺盛な知識欲で古本を買い漁る姿は流石に人気作家だけあり、その買いっぷりも羨ましい。
そもそも古本とは何ぞや!
既に読まれなくなった古い本のことか、然にあらず。
 
いつ頃のことかは忘れたが、ある日、ふらりと入った古本屋で思いも掛けない本との出会いが、私を古本の魅惑へといざなう通行手形となってしまった。
棚に押し込まれ私の推参を待つかのように、くすんだ背びれを覗かせていた一冊の大著。
 
東京裁判 木戸幸一尋問調書」
 
驚きを以って手に取り、さあ、ジャ〇ネットた〇た、一番気になるお値段は!
何と今なら税込み価格で7000円、えぇー、高い!。
しかし、店長のもう一声は無かった。
迷ったが、ここで会ったが百年目。
是が非でも買わねば。
読める、必ず読んでみせると自らを鼓舞して財布からなけなしの金を叩いて買った大事な大事な本、今も私の書棚に眠っているが、あれ以来、この本を見たのは古書店でたった一度、私の物より綺麗だったが。
以来、古本に対する概念は一変。
 
「そうか、そういうことだったのか古本とは」
 
目から鱗のVロートで初めて絶版本の意味合いを知り、まるで軌道修正するかのように古本へのめり込むようになった。
と言っても「道」と呼べるようなものではなく私なんざまだまだ三下。
 
だがしかし、ルビコン川を渡ったら後戻りは出来ない迷宮の始まりで、自律神経を侵すような、ほんよみ堂の日々。
足手纏いながら、一度、角田先輩のお供をしてみたいものだ。
岡崎師匠の入門への心得は、
 
「買いたいと思ったときに本はなし」
 
なるほど、ある古本屋の店主曰く。
 
「古本屋をやっていて思うことの一つに、モノや人が消えていく、ということは、それはそのまま、その記憶や記録の消滅を意味する、ということがあります。せめてモノだけでも残ってくれれば、それにまつわる『物語』を知りたいと思い、知ろうと努力する人が現れる可能性だけは、残るのではないかと思うのです」
 
余談だが、戦前の大阪日本橋には神田に匹敵するぐらいの古本街があったと聞く。
しかし昭和20年3月の空襲で一帯は灰燼に帰した。
どれだけの貴重な文物が失われたことか実に哀しい。
東條さんよ、なぜサイパンが落ちた時に積極的に和平工作の道を取らなかったのか、本当に恨めしい、確か、岸さんとは、その点の意見が合わなかったと聞きますが。
最後に角田女史の言を一つ。
 
「在庫切れ絶版。あぁ、絶版っていうシステムなんとかならないものかなあ」
 
頗る同感であります。
 
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