愛に恋

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色ざんげ 宇野千代

 
盲信なのか純粋なのか、短慮なのか思案の果てか、人並み以上の才能に恵まれながら時に見られる芸術家の心中事件。
この小説の主人公、湯浅譲二とは東郷青児のことで、離婚を挟んで繰り広げられる3人の若き女性との恋愛ごっこ。
 
彼の知名度がそうさせたのか女出入りがいい。
絶えることなく女が現れては消え、離婚が成立しないままに再婚。
それも長続きはせず以前の女、つまり西崎盈子(みつこ)と心中未遂をしたのは昭和4年3月。
二人とも一命は取り留めたものの、何と、その年のうちに東郷は宇野千代と同棲。
かくして本作は東郷の問わず語りを書き留めるようにして生まれ出た作品で、二人の馴れ初めを千代はこのように語っている。
 
「『罌粟(けし)はなぜ紅い』の作中に、一組の男女がガスで情死する場面を設定していたが、そのさし迫った場景どう描いたら好いか分からなかった」
 
だから、一面識もなかったが経験者たる東郷に電話して事情を話して聞かせ、
 
「そう言うさし迫った場合に男はどうするものか、電話で話して頂けないでしょうか」
 
と訊ねると、東郷は電話では話し辛いから、
 
「今日、大森駅前の居酒屋で友達に会う約束があるから、よかったら来ませんか」
 
と宇野を誘い、その夜のうちから二人は同棲、流石に無頼派同士、やることが素早い。
東郷の家で寝る段になって、
 
「こんな布団しかないが」
 
と出されたのは例の心中事件の時に使われた布団。
 
「血痕がこびりついて、がりがりになっていた」
 
だが千代はまったく臆せず二人して、その布団で寝たとあるから恐れ入る。
小説では事件後、病院へ担ぎ込まれたあたりで結末としているが、この後、昭和8年に千代と別れ、翌年に事件の当事者たる西崎盈子と結婚している。
 
この作品は昭和9年2月号から翌年3月号まで雑誌中央公論で連載され、新潮文庫の初版は昭和24年。
私が手にしているのは平成8年六十刷。
しかし現在はどうなっているのかなかなか見つからなかった。
 
それにしても厄介なのは今日ではまずお目に掛かれない文字の配列。
何と言うか改行がまったくない。
細かい字で頁が埋め尽くされ読み辛い。
若い頃ならとうに遠慮していたような代物だ。
余談だが東郷には「性愛日記」なるものが存在するらしいが一度読んでみたいものだ。
 
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