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老後破産: 長寿という悪夢 NHKスペシャル取材班

昔、青島幸男が『人間万事塞翁が丙午』という小説で直木賞を受賞したことがあったが、当時はこの難しいタイトルの意味が分からなかった。
語源は人間万事塞翁が馬で人生における幸不幸は予測しがたいという意味だが、『老後破産』とはまさにそのことを意味する。
マイホームを建て、家族を養い、定年までまじめに働き、老後は悠々自適な暮らしが待っているかと何の迷いもなく過ごしてきた結果、破産という厳しい現実を突きつけられる。
それは誰にでも起こりえることだから怖い。
 
いったいどういうことなのか?
定年後、多くの人は年金生活に入る。
預金もそれなりにある。
しかし、ある日、入院することになった。
途端に事情は一変、入院費や退院後の通院、当然年金だけでは賄いきれず預金を取り崩して生活しなければならなくなる。
 
そこで誰もが考えるのが日々の生活をギリギリまで節約する。
しかし、このままではいつか預金が底をつく。
最後に頼るのが生活保護となるのだが問題はそう容易くない。
例えばマイホームがある場合はまず家を売却しなければならない。
だが、住み慣れた家を手放したくないという人が殆どで最低限の生活を維持しながら現状を保とうとする。
 
逆に賃貸住宅に住みながら高額家賃の負担から都営団地の入居を希望し抽選しようと思っても引っ越しの費用がないというケースもある。
なぜこんなことになったか。
日本社会の構造が激変し核家族が進み独居老人が増えたことが要因だが、一つの例を引くとこうなる。
 
Kさんの場合
●収入 
国民年金+遺族年金=8万円
●支出
家賃(都営団地)=1万円
生活費など=7万円
介護費用=3万円
残高 -3万円
 
Kさんは要介護2で介護保険では要介護度に応じて利用できるサービスの分量が決まっている。
その範囲内であれば、介護保険を利用して本人が一割負担することでサービスを受けられる。
たとえば入浴サービス1万円だとすれば1千円で済む。
Kさんは要介護2で認められている上限一杯まで、すでにサービス利用しているので、訪問介護訪問看護のサービスは増やせない。
その場合、介護認定を受けなおし要介護3が認められれば、利用サービスは増やせるが、現在の支払額で精一杯のKさんは、たとえ上限が広がってもサービスを増やすことは難しい。
 
独居高齢者で経済的に苦しい人の中には、配偶者を亡くした後に年金がひとり分減ったことで追い詰められるパターンが多い。
また、足腰の痛い人は訪問介護訪問看護日を除けば殆どの時間を独りで過ごさねばならない。
想像するだけで大変なことが分かる。
取材班は、それぞれの独居老人を訪ね、どうしたらこのような苦境に喘ぐ現状から脱出できるのか、法整備をなどあらゆるパターンに沿って、その人の身になって考えているところが実によい。
私が記者だったらノイローゼになり神経を病むような事例がたくさんあるので読んでいて実に悩ましい。