愛に恋

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道草 夏目漱石

 
余談だが戦後、国語審議会が答申した当用漢字表が時の内閣によって告示され正式に採用されるようになったのは昭和21年11月のこと。
従来の正字体は複雑で難しく新たに制定された新字体は簡略化されたものだったが、おそらく旧字体に慣れ親しんだ明治生まれの人は、改正以後も、暫くは馴染めなかったなかろうか。
 
今回、漱石の『道草』を読んでみたが、実はこの本、岩波書店から昭和32年1月に発売された漱石全集第十三巻で現在では古書店でしかお目にかかれない。
先日、古本屋に行った折り調べてみると全34巻で15,000円だった。
当時の定価は一冊150円となっている。
 
それはいいのだがサイズの割には上下二段で文字が小さい。
確かこのシリーズは漱石以外にも鴎外、荷風などあったと思うが、昔の人は読み辛いという感覚を持つことはなかったのだろうか?
驚くのは出版が昭和32年の割に漢字は旧字体そのままを使用しているところで、漱石が書いた通りに活字化されており、噂に違わず当て字が非常に多い。
 
仮令ばこの字。
歇私的里性、これで「ヒステリー症」と読む。
今では死語になった「権柄づく(けんぺい)」は権力に任せて強引に事を行うの意
または「孤閨」などという言葉も出てくる。
昔は「孤閨をかこつ」などと言ったが、または「空閨」とも言い夫婦の片割れが居ないため独り寝の寂しさを訴える単語で艶っぽい。
 
新訳で読んでいないので何とも言えないが相対的にどのような漢字を使い、死語となった言葉などはどう訳されているのか変なことに興味がわく。
因みに解説を入れてもページ数は261頁だが現在の新潮文庫では389頁となっている。
内容的には決して難しいものではなく解説にはこのようにある。
 
海外留学から帰って大学の教師になった健三は、長い時間をかけて完成する目的で一大著作に取りかかっている。その彼の前に、十五、六年前に縁が切れたはずの養父島田が現われ、金をせびる。養父ばかりか、姉や兄、事業に失敗した妻お住の父までが、健三にまつわりつき、金銭問題で悩ませる。その上、夫婦はお互いを理解できずに暮している毎日。近代知識人の苦悩を描く漱石の自伝的小説。
 
夫婦喧嘩での会話など、或はそのまま言葉を写したかと思うほど妙にリアル観があり漱石の実生活を覗き見るようで興味深い。
 
では何故、新版で読まず敢えて旧版で読んだか、先年、知人の父君逝去の折り形見分けのような話しが出たので、処分されるぐらいならということで漱石の書籍から二冊頂戴仕った。
とは言うものの小生、故人とは一面識もなく、父君、若かりし昭和32年頃に同書を読み耽っていたかと思うと、やおら妙な気持にも相なり、読了せしことにより多少なりとも供養の一助になればと思ったが如何に。
 
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