愛に恋

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ルートヴィヒ2世 須永朝彦

 
うたかたの戀』という映画を知っているだろうか。
1936年作品で主演は名優シャルル・ボワイエ
1889年に起きたオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・フォン・ヴェッツェラ心中事件をモデルにした作品で、謎の多いこの事件についてはこれまで多くの本が出でいるが興味をそそられることこの上ない。
 
それに匹敵する怪事件がヴィッテルスバッハ王朝ルートヴィヒ2世の入水自殺。
こちらはヴィスコンティが『ルートヴィヒー神々の黄昏』として映画化している。
1845年に生まれのルートヴィヒ2世は第四代のバイエルン国王として即位、ヨーロッパの王族の中でも稀にみる美青年であったらしい。
身長191㎝、巻毛が好きでギョロリとした眼差し。
何故か写真や肖像画を見ると必ず立ち姿で斜め左上を見ている。
 
ワーグナーの伝記にはこの人なしでは語れないエピソードが豊富で、歌劇『ローエングリーン』を見たルートヴィヒが感動に打ち震えたとか『タンホイザーでは「病的と言い得るほどの興奮」を覚え、まるで「癲癇の発作」かと見紛うほどの痙攣を起こしたと侍従は語っている。
 
ワーグナーが度重なる借財のため拘束される危険が迫っていた時に救いの手を差し伸べたのがルートヴィヒで、それからの長い月日、仲違いを繰り返しながらも結局離れなかった。
往復書簡を読んでいると日本人では考えられないような大仰な物言いが出てくる。
 
「わが唯一の愛する友よ! わが救世主! わが神よ!」
 
ルートヴィヒとは如何なる人物であったか、あまりにも振幅の激しい極端な性格で解りにくい。
人前に出るのが苦手、癇癪、感激、憤怒も同じように沸騰し、肉欲一般が堪えがたく、法外な純潔と度外れた清浄を要求する割にホモセクシャルな一面も覗かせ、家臣への寵愛も突如として人目も憚らず始まり、散々引き回した挙句、突然終わる。
政治、軍事、外交、戦争に興味がなく、女嫌いで、ひたすら芸術と築城熱に取憑かれ、王室財政が既に破綻しているにも関わらず城造りの夢は捨てがたく、重臣を悩ませた。
 業を煮やした家臣達は一計を案じ、王の精神破綻を理由に退位を画策するが失敗に終わる。
 
「童貞王」「狂王」とも呼ばれたルートヴィヒは1886年6月13日、「8時(夜の)には帰る」と言って雨中、精神病専門医のグッデンと二人散歩に出たまま帰らなかった。
捜索隊が出たのが10時頃でレオニーという村の湖岸近くで二人の溺死体が見つかる。
発見現場は浅瀬で二人とも泳ぎが達者な事から、以前から自殺を仄めかしていたルートヴィヒがグッテンを殺害した後に自殺したものと思われた。
 
辺りには激しく争った跡があり、グッテンの顔に爪で掻き毟られた傷痕もあることから、湖に入ったルートヴィヒを止めようとして逆に殺害され、その後、王は自殺したと思われるがどうだろう。
しかしドイツ固有名詞の難しさ。
 
ノイシュヴァンシュタイン城、ヴィンターガルテン王宮、ホーエンシュヴァンガウ城、ニンフェンブルク宮殿
 
戦争が絶えなかった時代にあって、皇太子ルドルフとルートヴィヒ2世の物語は人々の関心を引き付けて已まない。
民衆を嫌ったルートヴィヒ2世が、逆に民衆からは絶大な人気があった。
良くも悪くも史上稀有な王であった。
 

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