海の祭礼 吉村 昭

 
久しぶりの吉村昭作品。
この人の本は歴史小説というより記録文学と言った方が正しいかも知れない。
それ程までに緻密さが随所に表れ小説という割には会話が少ない。
司馬作品が歴史の本流なら吉村文学は埋もれた脇役達の発掘作品と言ってもいい。
 
幕末ものは昔から好きで吉村文学は沢山読んできたが今回の主役は日本に憧れを持つ捕鯨船員のマクドナルドと長崎通詞の森山栄之助。
日本を取り巻く国際情勢の激変から開国間近と悟ったマクドナルドは船長の許しを得て単身、利尻島に上陸。
長崎に護送されてきたマクドナルドに英会話の教授を願い出るのが森山栄之助。
二人の利害は一致、共に語学を学び合う前半と、ペリー来航以後、激変する政局と条約問題に奔走する森山栄之助。
 
幕末の政局ほど緊張と波乱に富んだ歴史も珍しく作品は遺憾なくその興奮をこちらに伝える。
ペリー来航は突然のものではなく、その2年前にオランダ公文書から幕府に知らされていた。
浦賀に現れたペリー艦隊を初めて見た者からの報告は!
 
「其早キ事糸車之廻リ候様ニ御座候」
 
老中首座阿部正弘の苦悩、条約問題でペリーと折衝、総領事ハリスの無理難題、大老井伊直弼の暗殺、列強諸国と条約締結、相次ぐ異国人襲撃事件、生麦事件に端を発した薩英戦争と長州・イギリス、フランス、アメリカ、オランダ4か国との戦い。
森山は休む間もなく、これらの武力衝突を伴う事件の収集に奔走。
迎えた明治維新では新政府から出仕を乞われるも、既にその気力はなく、明治四年、51歳で世を去るまでの激動の一生を描いた小説だった。
 
作品を書くにあたっての吉村さんの資料収集力はまるで敏腕刑事のそれで読むものを圧倒する。
特に海を主題にしたテーマが多く、難破船ものを書かしたら右に出るものはいないだろう。
司馬、吉村両氏のファンだっただけにお二人の鬼籍入りは今もって残念でならない。
 

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