愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

仮装人物 徳田秋声

 
妻を亡くし老境に差し掛かった作家庸三、作家志望で多情気質の愛人葉子、二人の腐れ縁のような物語だが、まあ、とにかく読み辛い。
徳田秋声といえば明治・大正・昭和と活躍してそれなりに有名な作家だと思うが、今日、それほどには読まれない理由が一読して分るような気がする。
 
ページを捲るごとにうんざりするような説明文が改行もなしにぎっしり書かれ、それを永遠と読まされ、強いては当て字のような漢字を使い読み辛さを倍増させている。
この際だから、ある程度それを紹介したい。
 
悉皆 これで(すっかり)と読ませる!
微声 (小声)
笑談 (冗談)
都て (全て)
錯雑 (ややこしい)
鈍暗 (なまくら)
直り (ぴったり)
約やか (つつましやか)
淡泊 (さっぱり)
為体 (ていたらく)
乾児格 (子分格)
卒知らず (いざしらず)
蔑視む (さげすむ)
喫驚 (びっくり)
宛然 (さながら)
逍遥いて (ぶらついて)
駐った (とまった)
 
これ以外にもまだあるが明治人はこのような当て字を普通に使っていたのだろうか。
まあ、それはともかく縁は異なもの味なもので男と女、長く付き合っていると相手の欠点など百も承知なのだが情に絡んで別れられなくなる事が多々ある。
相手の弱みに付け込むのではなく、頼りなさを見てしまったが故に情味が湧いて去り難い自分の弱さを痛感したりする。
さりとて絡まっている事が愛の状態とも言えるから男と女はややこしい。
あっ、秋声先生に言わせるとややこしいは錯雑と書くのか。
しかしこれ、先生の実話らしい!
 
手切れ金を渡して何度も別れる二人。
だが、どうした訳か、暫くすると必ず電話で呼び出される庸三。
秋声という人は女性の頼りなさ弱さを受け入れてしまう人だったのか、はたまた自分の弱さの露呈か。
復縁して再び同居となるが、もう少し情事の場面を詳細に書いてもよかったと思う。
はっきりしない関係を縷々読なされて嫌になるが挫けずめげず正に読書は格闘技なり。
 
では何故この本を手に取ったのか、それは秋声の粘着質な恋愛模様を知りたかったが故だが流石にもういいという読後感で否めなく暫くは秋声から離れたい。
本書は昭和10年秋声64歳の7月から、途中病気を挟んで、13年8月まで断続的に雑誌に連載され同年10月に単行本として刊行されたものでかなり古い。
現在『仮装人物』を読むにはおそらく岩波文庫講談社文藝文庫しかないと思うが近代作家に興味がある私としては避けては通れなかった。
とにかく挫折しなかっただけ良かった。
 

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