居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

追想 芥川龍之介 芥川文

 
 菊池寛はこんなことを言っている。
 
「故人老いず、生者老いゆく恨みかな」
 
芥川や直木を偲んでの発言であることは間違いない。
時間は無情にも生者にのみ長れていく。
芥川文さんが未亡人になったのは28歳の時。
それからの40年、夫への思いを訊き語りして纏めたものが本書になる。
亡くなったのは昭和43年で思い出す内容はとにかく古い。
しかし彼女にとってみればどれも大切なもので大正文壇史が好きな私にしてみても得難い本。
 
有島、芥川、太宰と皆、頑是ない子供を遺しての自殺だったが晩年の芥川が如何に精神的苦悩に喘いでいたか、有島、太宰とは違う意味での自死に同情を禁じ得ない。
夫の死顔に向かって夫人は言った。
 
「お父さん、よかったですね」
 
以前、鵠沼で東屋の跡地に建つ石碑だけを見てきたが、嘗ての広大な東屋旅館の全貌を一度見たかった。
夫人の実家がたまたまこの近所にあり、東屋も文士の定宿として栄え、今日、石碑だけが往時を偲ぶよすがとはとても残念だ。
 
芥川夫妻、最後の逗留は大正15年末。
昭和2年7月24日未明に芥川は自殺。
記憶では内田百閒が、
 
「芥川君は、あまりの暑さのために死を選んだのだろう」
 
と言っていたが、前日の気温は36度、冷房のない当時にあってはまさに猛暑日
終の棲家となった田端の家は家財、書籍もろとも戦災で焼けてしまった。
夫人は鮮明に愛おしむかのように往時を振り返って芥川を語っている。
故人の記憶は遺族が骸となるその日まで、少しづつ色褪せながら幾年月、キープされたボトルのように出番を待っているのかも知れない。
それを時折取り出して味わうのが想い出というものか。
 

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