本当ですか西鶴先生!
その異端ぶりから「阿蘭陀流」とも呼ばれこの本のタイトルにもなっている。
若くして妻を亡くし、盲目の娘と大坂に暮らしながら、全身全霊をこめて創作に打ち込んだ300年以上前のベストセラー作家井原西鶴。
若くして妻を亡くし、盲目の娘と大坂に暮らしながら、全身全霊をこめて創作に打ち込んだ300年以上前のベストセラー作家井原西鶴。
朝井まかてという人は実に筆達者な人。
「恋歌」で直木賞を受賞しているが、本書も痛快この上ない小説だった。
有名な「お夏清十郎」とは『好色五人女』の中に出てくる物語とは初めて知った。
「けど、今の公方さんも初めはえらい賢いお人や、出来物(できぶつ)らしいてな評判やったけど、親に孝を尽くせやの、いつも行儀ようしてなあかんやの、ほんまに厄介やな。今度は飼(こ)うてる犬猫、鳥まで大事にせぇて、ふざけてんのんか」
上手い言いようですね!
中でも関心したのがこの場面。
「長者になる秘訣を訊ねに来た貧乏人連中に、銀持ち婆さんは喋り通しや。けど肝心なことは指南してくれんまま、どうでもええ世間話で日が暮れて、とうとう夜も更けてきた。婆さんの暇潰しの相手をさせられただけで、これはとんだ空手形を喰ろうたもんやと膝を立てかけた途端、台所から擂鉢の音が盛んにしてくる。やあ、これは何ぞ旨い物でも馳走してくれるのやと期待して坐り直したはええが、運ばれてくるんは音ばかり。誰かが、あれ、どないなお菜を作ってはりますねんと問うたら、婆さんはにやりと笑うて返したな。あれは大福帳の紙を綴じる糊を作ってますのや。客に夜食なんぞ出さぬのが、長者になる秘訣だす」
いや、素晴らしい落語のような絶妙な会話。
因みに物語の主役は西鶴ではなく盲目(めしい)の長女おあい。
親子の最期までは書かれていないが、おあいは「世間胸算用」が世に出た元禄五年三月二十四日に二十六歳で没したとある。
西鶴はその翌年、八月十日に没。
それにしても時代考証たるや見事なものでした。