愛に恋

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和解 志賀直哉

 
自分の親が物書きだったらよかったのにと常々思っている。
生前、父は経歴や想い出を何も書き残さなかった。
実母との激しい確執があったとは語っていたが、それがどのような原因に拠るものか今となっては知る由もない。
 
そこへいくと近代作家は私小説や随筆などで生い立ちをばら売りして来たような感があるので遺族としては親の生涯を知る手がかりになり羨ましい。
中には祖父母を語っている人もいるので尚更だ。
 
志賀直哉と実父の確執は広く世間に知られているが、その原因がどこにあったのか私は知らない。
『和解』はその名が示す通り父との和解を題材にした私小説だが、発端となった諍いについては何も触れていない。
解説に拠ると原因は二つあるように書かれている。
一つは23歳の時に仕出かした女中との恋愛を巡り結婚を反対されたこと。
それは『大津順吉』として小説の題材になっているらしいが確か読んでないと思う。
 
二つ目はそれ以前、18歳の時に起きた問題を取り上げている。
例の渡良瀬川足尾銅山事件で被害者の農民視察旅行に出かけようとして反対され、何でも父親は古河財閥創始者と共に足尾銅山開発に携わった経緯があるとかで息子が被害者側に立つのを嫌ったためではないかと書かれている。
 
この小説は大正六年の作だが、これだけを読む限りでは後年言われた「小説の神様」的な優れた文章力は伺えない。
また、親子の確執の部分だけを捉えているので作品としては完全版ではないような印象を受ける。
 

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