古書探訪とは言い換えれば古本屋を定期的にパトロールするようなものだ。
何か、いい獲物はないかな。
とびっきりの獲物などはそう易々とは見つからないが、今日はこのぐらいで我慢しておくかというような代物は時に引っ掛かる。
勿論、手ぶらでの御帰還もあるわけだが。
しかし、先日の獲物は意想外の我が家には不似合いなものだった。
タイトルを見て「なんじゃ、これは!」と思ったが意に反して衝動買いしてしまった。
水戸黄門と言えば天下の副将軍で「漫遊記」だろう。
それを何だ、「天下の副編集長」とは、ふざけるにも程がある。
が、たまにはおふざけもいいかと買ってしまった。
受賞歴もそれなりにあり、その世界では知られた人なのだろうか。
読んでみると確かにおふざけともとれる内容だが意外と書くのは難しかろうと思う。
水戸光圀といえば『大日本史』の修史作業に従事した人物として有名だが、本書はテレビドラマと違って、お上の横暴から民百姓を守るのではなく、各地の名だたる学者に依頼していた原稿が遅れているのに業を煮やした御老公が御自ら催促に向かう隠密旅行という設定。
覚兵衛こと覚さんは光圀公が国史編纂のため小石川藩邸内に設置した史局彰考館の総裁、介三郎こと介さんは編集顧問という役職。
甲賀忍者お吟、幕府隠密風車の男も登場する。
助さん覚さんはテレビと違って武芸にはまったく自信がない。
身分を隠した三人は下田、駿河、藤枝、掛川と乗り込み「原稿は如何した」と執筆者に迫る物語だが、途中から真田幸村の血を引く真田月読(つくよみ)姫なる豊臣の残党と、それに付き従う4人のくノ一が御老公一行の前に立ちはだかり原稿の取り合いで乱戦。
私にとっては意外な展開だが真田月読姫らの目的は『豊臣版国史』の作成。
とまあ、どうでもいいような話しなのだが、かなり専門的なことも書かれているので少し挙げてみた。
因みに斯界とは「この社会」とでもいう意味。
パクリ 明代に著された古典『三国志演義』の作者の一人とも言われる箔李(ぱくり)が、執筆に行き詰まった挙句、他人の作を盗用したという故事に由来する。
スランプ 清の同治年間に寧波(ニンポー)の陳魚門が明代から存在した手札を用いる遊戯「馬吊(ばちょう)」と「骨牌(こつはい)」とを合体させて「麻雀」を完成させた際、同時に創作したという「素乱符(すらんふ)」なる遊戯に由来する。
神韻縹渺(しんいんひょうびょう)
芸術作品などがもっている、表現しがたいきわめてすぐれた奥深い趣。
最後に「恋わずらい」についてこんな記述がある。
懸想(けそう)は恋慕うこと。
とにかく、時代小説を書く場合には、それなりの知識も必用ですね。