愛に恋

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本当は怖い昭和30年代 キン マサタカ

 
写真家、土門拳などの作品を見ていると昭和30年代は如何にも長閑で古き良き時代を切り取ったノスタルジックに満ちたとてもいい時代のように思える。
高度成長期の日本はまだまだ貧しく伸び盛りで、町には子供が溢れ、人情があり、もう再び帰ってくることのない戦後の活力に満ちた日本らしさが活写されているようにも思うのだが、本書を読むと、それらの思いは単なる幻想に過ぎず、昭和30年代は暴力と犯罪に彩られた時代であって夢も希望もない10年であったとこき下ろしている。
 
人権思想の欠如、安全性の欠落、モラルの低下などは現在を生きる我々からみたら、その基準は劣悪だったと断言。
私も昭和30年代を体感した口だが、何から何まで素晴らしいと言っているわけではない。
貧しくとも逞しさがあり、子供は子供らしく過ごせた時代だったと思う。
だが、当時はまだワイドショーなどの番組はなく、巷で起きる多種多様な事件を証左していけば、今以上のトピックスが五万とあったということだろうか。
至る所、安全管理に落ち度があり事故が多かったことは充分察しがつく。
 
医療面でも結核は現在の40倍、食中毒は80倍、赤痢は1000倍と大変不衛生な環境、
中絶率は5倍、40%の人は寄生虫に感染と数え上げたらキリがない。
家風呂はなく、暖を取るにも危険な練炭活用、交通に於いても大惨事が何度となく発生、車、船、飛行機の安全性は今よりかなり低くかった。
野菜は農薬で育ち、家にはネズミが住み付き、街には物乞いが溢れ、河には水上生活者も。
 
新生児の死亡率は現在の20倍、飲酒運転はあたりまえ、ボットン便所でウンコは海に捨て、取り調べには暴力がつきもの、幼児殺害は現在の12倍。
差別と偏見が犯罪捜査に影響し、薬物常習者が溢れ、子供の火遊びが多発、幼女レイプも日常茶飯事。
 
これでは、まったく救いようのない時代のように思えてしまう。
ということは私より年長者の中にはここに書いてきたことの体験者がいるということか。
30年代、知り得る大事件と言えば『吉展ちゃん誘拐殺人事件』『狭山事件』『浅沼委員長刺殺事件』『名張ブドウ酒殺人事件』と伊勢湾台風ぐらいだろうか。
 
しかし何事にも規制が緩かった当時にあっては犯す方も取り締まる方も今の常識では考えられないようなことが事実として沢山あったことは想像に難くない。
想い出は美化されるというが半世紀以上前の日本、あたりまえと言えばそれまでだが、いいことばかりではない時代だったようだ。
 

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