愛に恋

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定年オヤジ改造計画 垣谷美雨

 
唐突だが、夫源病という言葉を聞いたことがあるだろうか?
一般的にあまり聞かない単語たが調べてみると確かにある!
読んで字の如しというか、夫が原因の病気らしい。
定年後の夫を粗大ごみと呼び、熟年離婚が叫ばれて久しいが夫源病なる単語に興味を持ち、それらを題材にした本があるというので、早速、紀伊国屋に電話して確認をしてもらうと在庫は一冊、おっとり刀で飛んで行った。
一見、自己啓発本のようなタイトルだが、豈図らんや、れっきとして小説である。
 
主人公の家族構成は、60歳を一つ二つ過ぎたぐらいの定年退職した夫とその妻。
33歳の独身娘と30歳で妻子持ちの息子。
3歳と1歳の孫が居る、一見どこにでもある普通の家庭。
物語は退職後の庄司常雄なる主人公の暮らしにスポットを当て、まず、庄司が描いていた定年後の人生設計などが語られる。
 
妻、十志子と美術館や博物館を巡り、鎌倉を散策。
60代前半は欧米を周り後半はアジアを旅する。
70代は国内旅行、名所旧跡を妻と二人ゆっくり散策する。
結婚以来、大きな喧嘩もなく仲のいい夫婦だと思っていたが、実は、そう思っていたのは自分だけだった!
そんなバカな、信じられない、俺が一体何をしたと言うのだ、という話しが始まる。
 
40年近く、ひたすら家族の為に働き浮気もせず、仕事人間として生きてきた庄司。
退職当初は下請け会社で週4日の嘱託勤務が決まっていたが三カ月で会社は倒産。
以来、再就職はせず預金、退職金、65歳からの年金などを考え在宅が多くなってから妻の態度は冷たくなった。
先に定年を迎えた先輩たちを見ていると酒に溺れ、或は一日中テレビの前を離れない、自分は決してそうならないと自信もあったのに。
 
何十年ぶりかの本当の自由。
毎日毎日、何をして過ごしてもいい、これほどの自由は幼稚園入園前以来だ。
人間関係で悩むこともなく時間に拘束されることもない。
しかし、家庭内事情は思わぬ方向にずれていく。
聞けば、いつの間にか「主人在宅症候群」なる病気で心療内科を受診している妻。
娘にはいつしか「あんた」呼ばわりされ「古いのではなく間違っている」と非難される毎日。
挙句には息子に「オヤジって・・・なんかズレてる」とまで言われてしまう。
しかし、子供達になんと言われようが庄司の考えは変わらない。
 
古き良き時代は終わってしまい、今どきの母親が誤った道にどんどん入りこんでいる
 
だが、決定的な妻の一言が!
ある日のこと、急な用事で孫の世話を頼まれ息子夫婦の家に向かう車中で。
どうした訳か妻は助手席に座らない。
後部座席に座って窓を開ける。
 
「寒くないのか?」
「寒いですよ、でも息苦しいから」
「俺ってそんなに臭いのか?」
「閉所恐怖症なんです」
 
と、まどろこしい会話が続き庄司は意味が解らない。
そして妻がはっきり言う。
 
「私が閉所恐怖症になるのは貴方と一緒にいるときだけなんです」
 
更に医者からは、そういう場面は極力避けるようにと言われていると。
こんなことを言われた日にゃ夫たるもの、一体、どうしたらいいのだろうか。
定年後の夢が一気に崩壊していく。
娘にもダメだしを喰らう。
 
「こんな化石みたいな男と何十年も連れ添う女も大変だよ。母さんには心から同情するよ」
 
日々、やることと言えば図書館に行くぐらい。
そんな暇な時間を当て込んで息子夫婦から孫たちの保育園の迎えを頼まれ子育ては全て妻に任せて来た手前、何をどうしたらよいのか分からない庄司。
お漏らし、おやつ、本読みと疲れる毎日。
妻に愚痴を言うと、それを一日24時間、一年365日、私は毎日やって来ましたと反論される。
更に親友が離婚話しを言い出されたと打ち明けられる。
二人は話す。
 
「サラリーマン時代と違って毎日が日曜日だ。つまり、これからの15年間を考えると昔より約3倍の自由時間があるわけだ。それを有効に使うかぼうっと過ごすかの差は大きいぜ」
 
読み進めていくうち定年退職後の人生の悲哀を感じてしまう。
余談だが私には行き付けの喫茶店が4件ある。
うち1件はモーニング専用で通っている。
全席禁煙とあって朝っぱらから60歳以上のおばちゃんたちが席を埋め尽くす。
それを見て私は考える。
この人たちの旦那はどうした?
既に死に別れたか、元々独り身か、或は旦那とは別行動か、何れにしてもおばちゃんは1人ではあまり来ない。
朝から論壇風発、といっても世間話しだが。
 
がしかし、友達とよく待ち合わせに使う喫茶店は事情が違う。
こちらは全席喫煙OK。
更に新聞が置いてあるのでオジサンが約8割だが夫婦連れは殆ど居ない。
このような本が出るということは今の世の現状を訴えているのだろうか。
少子高齢化、晩婚、人口減少、交際相手が居ないなど、本書は結婚に幻想は禁物だと教えているようなものだ。
だがタイトルに「改造計画」とあるように孫の面倒を見ない息子を通して少しずつ考えを変えていくジイジ。
そのジイジはこんなことを言っている・
 
「いないいないばあをやると、異様に喜ぶんだが、この前教えてみたら30回もやらされたんだ。もう嫌になっちゃてさ。あれ、どうにか途中で止める方法はないかな」
 

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