愛に恋

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ホテルローヤル 桜木紫乃

 
 第149回直木賞受賞作。
タイトルから想像するに『ホテルローヤル』に来る客のそれぞれが抱える胸の裡をドラマ仕立てで紡ぐ連作短編集ようなものかと思っていたが少し違った。
ホテルローヤルで起こる七つの物語だが時系列的に過去に遡るように展開されている。
 
本来ならホテルオープンから廃業までの七編というところだが、逆に廃業後からオープンへと進行していく。
登場人物は全て別人、いずれも庶民派感覚の市井の人で男女の間で繰り広げられる会話は適格にして妙。
さすがに直木賞だけあって上手い。
 
生々しいセックスの描写はないが性欲、または行為そのものの表現力は卓越している。
夜という架空現実を求めて昼日中にやって来るカップル、遠慮なく声が出せるところでやりたいという妻、そこで働く者やホテル経営者の裏事情などかなり面白い。
 
作者は女性だが、この非日常的な空間で性の神髄を見事なタッチで表現しているところは確かに感心する。
なかでもこんな表現。
 
「おとうが股をまさぐったら、なんにも言わずに脚開け。それさえあればなんぼでもうまくいくのが夫婦ってもんだから」
 
至言ですね!
しかしラブホテルという密室の中で凝縮される男女の営みの面白さ。
それは単なる性の遣り取りだけではなく実にエキサイティングなドラマの宝庫。
愛の生まれる場所でもあり終わる場所でもあるラブホテル。
事の終わりに満足を覚えるのか虚しさを感じるのか、それを表現するのが文学ですね。
 

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