愛に恋

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湯河原襲撃 河野司

 
何につけ軍人に関するノンフィクションや伝記は時に気が重い。
この本も以前古本屋で買ったはいいが中々読む気にならず暫く放っておいた。
実に50年以上も前に発売されたもので初めて見た本だった。
私の所蔵本に、ニ・ニ六事件に関係した全青年将校らの手記や遺書を纏めた本があるが、本書のタイトル『湯河原襲撃』とは事件当日、湯河原の伊東屋別館に宿泊していた前内大臣牧野伸顕伯を襲った陸軍航空大尉河野寿の蹶起から自決までの詳細が書かれている。
 
著者の河野司とは当事者の実兄にあたる。
著者は事件以降、遺された家族や関係者の聞き取りに後半生を費やし膨大なニ・ニ六事件関係の本を残した。
実際、弟に頼まれて自決用の果物ナイフを与えたのも司氏だ。
 
河野大尉以下8名は自動車二台に分乗し湯河原に向かったのだが牧野伯の部屋を目前にして護衛の警官に胸を撃たれ重傷を負った。
別館に火を放って退却したが撃った護衛警官も逆に河野大尉から撃たれて死亡。
河野大尉は熱海の陸軍衛戍病院に搬送、以前から気になっているのだが、この病院は現在どうなっているのだろうか。
 
伊東屋別館の跡地といい陸軍衛戍病院といい機会があったら一度行ってみたい。
その河野大尉が院内の敷地で自決したのは3月5日。
果物ナイフで喉を5回ほど刺している。
強い覚悟が伺われるが急を聞いて駆け付けた院長の手当てに「やめて下さい。死なせて下さい」とまで言った。
 
尚、それより先の29日、陸軍省で蹶起部隊の先任将校だった野中大尉がピストル自殺している。
勿論、私自身、皇道派がいいとか統制派が間違っていたとか語る資格などないが「陸軍大臣告知」に翻弄された彼等、青年将校の気持ちを慮ると何をか況やである。
 
しかしそれにしても、斉藤内大臣、高橋蔵相、渡辺教育総監を殺害し鈴木侍従武官長に重傷を負わせ岡田首相、牧野伯までを殺害しようと企んだ罪は確かに重かろう。
元老、重臣、財閥、軍閥と当時、頻りに言われた君側の奸を斃すことが本当に革命の成就になるのか私には解らない。
 
どちらに転んでも後味の悪い結果となったが果たして皇道派の勝利だった場合、後の大東亜戦はどうなったのか興味は尽きない。
まずは真崎大将に大命降下ということになったのか。
 

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