愛に恋

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ヘミングウェイの流儀 今村楯夫 山口淳

私の父は生前、ゲーリー・クーパーのファンで、とにかくクーパーの話しが大好き。
そのクーパーが前立腺癌で亡くなったのが1961年5月13日、60歳だった。
それを聞いた親友のヘミングウェイの落ち込みは相当なもので、同年7月2日に猟銃自殺している。
遺書もなく自殺の原因は詳しく分かっていない。
 
癌家系とはよく聞く言葉だが、自殺家系というのはあまり聞かない。
しかしどういうわけかヘミングウェイ一族には自殺者が多い。
父のクラレンス、妹アーシュラ、弟レスター、孫マーゴ・ヘミングウェイ、そしてヘミングウェイ本人。
 
ノーベル賞作家の自殺と言えば川端康成ヘミングウェイだが、この二人の経歴や風貌はあまりに対照的すぎる。
痩せぎすで蒲柳の質の川端とは反対にマッチョでタフネス、ハードボイルド・リアリズムのヘミングウェイは災難に見舞われながらも不死身な強さを内外に示してきた。
 
第一次大戦中、被弾して重傷を負い、パリでは天窓が落下して額を直撃、灯火管制下のロンドンで交通事故、アフリカでの赤痢、そして二度にわたる飛行機事故。
戦争も第一次大戦、スペイン内戦、第ニ次大戦と参加し圧倒的タフガイと幸運で生き抜いた果ての自殺だった。
 
頑健な肉体、逞しい行動力、並外れた記憶力、視覚、聴覚、臭覚、味覚、観察力を創作の糧とした作家。
釣り、酒、食、狩猟、闘牛、キューバとこれほど魅力的な作家も稀だ。
 
しかし後年は高血圧に悩まされ、バスルームの壁に血圧と体重を書くのが日課、更に鬱病にも見舞われた。
だが、この本の主体は彼の伝記ではなく、拘り続けたアイテムの紹介。
衣服や道具に求めたのはシンプルさと実用性。
 
多くの評伝には服装や持ち物に無頓着で執着しなかった人物と書かれているらしいが、それらの定説を覆すのが本書の狙いとも言える一冊。
 
「人生は、ほんのいくつかのものに愛着を持つだけでいい」
 
と言った彼の愛用品のひとつひとつを検証していく地道な本だ。
彼の膨大な遺品はキューバの邸宅、フィンカ・ビヒアのヘミングウェイ記念館とアメリカのJFKライブラリーに保管されている。
キューバか・・・!
ヘミングウェイが愛したキューバ、私も行ってみたいものだ。
 
因みに靴のサイズは29㎝。
 
しかし人生をは解せぬものだ。
彼ほど素晴らしい行動力と才能に満ちた生涯でも自死という結末が待っているとは。