愛に恋

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サムライ 評伝 三船敏郎 松田美智子

 
三船敏郎の型破りな人生が感動を呼んだ本だった。
スクリーンで見る三船敏郎とは違う一面を垣間見るようで人間的魅力に惹き付けられる。
三船は19歳から25歳まで、6年間兵役に従事し万年上等兵と言われていたらしい。
終戦時は熊本県隈之庄の特攻隊基地で迎え、敗戦を知った三船は大声で「ざまあみやがれ!」と怒鳴り鬱憤を晴らしたとか。
 
東宝入社への動機はキャメラマン志望だったが空きがなく嫌々、ニューフェイスの面接を受け、審査員に笑ってみろ、泣いてみろとか言われ「可笑しくもないのに笑えない、悲しくもないのに泣けない」と言って随分、反抗的な態度だったらしい。
逆にそれが面白くて採用に至ったようだ。
新人だった頃には「おい、出番だ」と言われ、掃除をしていた三船は「今、忙しいから後にしてください」と言って笑われたという話しも残っている。
 
以後の三船は知ってのとおり黒澤監督に見初められ出世街道をとんとん拍子で駆け上がって行くが、三船の演技力の凄さは何と言ってもその優れた身体能力にある。
隠し砦の三悪人』という映画を観たことがあるだろうか。
おそらく日本映画史上あれほど優れた身体能力を見られるシーンはない。
 
田舎の一本道で背筋を伸ばした状態で刀を両手で握り、姿勢を崩すことなく、馬を疾走させ、いわゆる八双の構えで二人を斬り捨て、最後の一人を追って敵陣に乗り込んで行く場面。
無論、手綱は持たず膝の内側だけで馬を制御しているわけで恐ろしいほどの乗馬術を見せる。
 
更に『蜘蛛巣城』で見られる数十本の矢が三船に放たれるシーン。
あれは本物の弓矢が射られているらしい。
それに怒った三船は酔っぱらって黒澤監督の家の周りを日本刀片手に運転して回り「黒澤さんのバカ野郎」と怒鳴りまくっていたというエピソードもある。
当然だろう、一つ間違えば死ぬ可能性さえあった。
 
三船という人はスタジオ入りした時には全て台詞を覚え台本は持ってこなかったと言われているが、そんなことが出来るものなのか。
私が持っている三船敏郎のイメージは豪放磊落。
これに尽きる。
 
しかし実際の彼は極端なまでの潔癖症と几帳面。
律儀で気配りの人で涙脆かったとか。
だが酒豪で時に羽目を外し、ピストルはぶっぱなす、日本刀を振り回すで周囲をハラハラさせていた。
そんな三船も晩年はかなり不遇で認知症を患い正妻の顔も判らなくなっていた。
死後、香川京子の言葉が痛々しい。
 
「あれほど世界的にも評価された偉大な方なのに、晩年は寂しくなられたことを聞いて、人生を全うするのは、難しいことなんだなあと感じました。とても残念です」
 
生前、冗談好きな三船は、こんなことを夏木陽介に言っている。
 
「明日、飴の安売りという女優が撮影所に来るらしいんだが、その時間、俺は用事があるから案内を頼む」
 
「誰ですか、その女優は」
 
キャンディス・バーゲンとか言ったな」
 
序に著者が是非にも観てほしいと言っている五作を紹介しておく。
 
羅生門
『レッド・サン』
 
因みに私は『酔いどれ天使』だけは観ていない。
 

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