居眠り狂志郎の遅読の薦め

喰う寝る読むだけの素浪人です

獄中手記 磯部浅一

 
何で私が磯部浅一の『獄中手記 ・行動記』みたいな本を読まなければいけないかってなもんですね。
そもそも磯部の思想を理解するような頭脳も行動力も持ち合わせていません。
二二六に関しては過去、かなりの本を読んできたが五一五ほど事は単純ではない。
解説を帝京大学文学部長 東京財団上席研究員、筒井清忠という人が書いているが、その中にこうある。
 
「二・ニ六事件については今に至るまで一知半解の不正確な歴史叙述が多い」
 
まったくその通りで、いくら読んでもイマイチ理解できないところがある。
今さら事件の概要を説明するまでもないが、この問題を複雑にしているのは起こった事件そのものより、襲撃後の陸軍上層部が取った行動が二転三転している故である。
本来なら磯部の思想を知る前に北一輝の『日本改造法案大綱』を読むべきだと思うが、とても私には手に負えないので省く。
 
言い訳がましいが、こんな本を読んでおいて何から書いてよいか分らない。
が、読書感想文は必ず書くと決めた以上はやり遂げたい。
大きく分けて後世の歴史家を惑わす原因は四つあるように思う。
 
一、陸軍大臣告示が二種類ある
二、頼みとしていた皇道派の将軍たちを逆に磯部は告訴している点
三、皇道派と統制派の選別
四、奉勅命令の下達
 
まず、二種類の陸軍大臣告示とは如何なるものか?
 
一、蹶起ノ趣旨ニ就テハ天聴ニ達セラレアリ
二、諸子ノ真意ハ国体顕現ノ至情ニ基クモノト認ム
三、国体ノ真姿顕現ノ現況(弊風ヲモ含ム)ニ就テハ恐懼ニ堪ヘズ
四、各軍事参議官モ一致シテ右ノ趣旨ニヨリ邁進スルコトヲ申合セタリ
五、之以外ハ一ツニ大御心ニ俟ツ
 
これは荒木、真崎、林、阿部、植田、西などの軍事参議官が作成したもを川島陸相名で告示され、山下少将が青年将校の前で読み上げたものだが、問題は二の「諸子ノ真意ハ」が初めは「諸子ノ行動ハ」となっている点を磯部は公判で鋭く突いている。
それもそのはず、「行動」と「真意」では解釈に相当の開きがある。
軍事参議官が「行動」を認めたとあらば諸君の取った行動は正しかったということになってしまい反乱部隊は逆賊にならない。
 
それにも増して事態を複雑にしたのは戒厳司令官の香椎浩平中将によって反乱部隊が戒厳部隊に編入され市内の警備を命じられたので磯部らは当然、「吾人の行動は認められた」と解釈した。
しかしここは最大の問題で磯部は最初に出た告示には「行動」が先だったと言っている。
だが、「真意」が先だという説もあり混沌として解りづらい。
 
二、頼みとしていた皇道派の将軍たちを逆に磯部は告訴している点
 
これは関してはつまりこういうことだと思う。
皇道派将官たちの多くは裁判が始まると青年将校らとの関係を否定しようとした。
これに憤慨した磯部は彼等15名を反乱幇助罪で告発。
のみならず陸軍大将宇垣一成ら9名を内乱予備罪で検事総長に告発状を出したから事態は一層ややこしくなった。
宇垣大将告発は宇垣内閣流産の事を言っているのだが長くなるのでここでは省く。
 
四、奉勅命令の下達
磯部だけではなく青年将校全員が29日までそんな命令は受領していないから逆徒にはならないと強く反論している。
しかし、『本庄日記』にもあるように天皇の逆鱗に触れたことは確かで果たして奉勅命令は出たのか出なかったのか。
 
とにかく「大臣告示は説得案なり」という軍の方便に磯部は怒り狂っている。
しかし私には磯部らの主張が未だに解っていない。
何故、元老、重臣、財閥、軍閥を討つのか。
高橋大蔵大臣に関しては参謀本部廃止論やロンドン軍縮条約に賛成を述べるなど、これは統帥権の干犯になると言っている。
 
渡辺教育総監は前任者真崎総監に反して統制派に属していたからではないか。
更に軍の高官を暗殺するに機関銃を持ってしたこと、斉藤実内大臣に対しては銃弾48発も撃ち込んでいる。
 
ともかく磯部は獄中で書きに書き、告発状を乱発、先に銃殺された15名より遅れること、一年近くも獄に繋がれていた。
その後、村中孝次、北一輝西田税と共に処刑。
 
しかしそもそもこの事件は真崎大将の更迭、永田軍務局長の惨殺などに端を発しているがクーデター成功の暁にはどうしたかったのか。
真崎大将に大命降下がベストだったとも言われているが事件が一掃されて替わって登場したのが寺內壽一陸軍大臣
磯部は事あるごとに寺内を槍玉に上げていた。
 
だが、こんな説もある。
もし、統制派の永田軍務局長が暗殺されなければ東條の前におそらく永田が首相になり太平洋戦争も起きなかったのではないかと。
最後に私個人としては安藤輝三大尉には同情を感じる。
部下の多くは東北の貧しい農家出身で日頃、その惨状を聞いていた安藤大尉は純粋過ぎたと言えるかもしれない。
 
ともあれ、盧溝橋事変は翌年に迫っていた。
 

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