居眠り狂志郎の遅読の薦め

喰う寝る読むだけの素浪人です

波に夕陽の影もなく―海軍少佐竹内十次郎の生涯 佐木隆三

 
昭和23年に新聞連載された大佛次郎の作品に『帰郷』という小説がある。
今日では絶版本で古本屋でしかお目にかかれないが、その主役となった守屋恭吾なる人物が、今回の本のモデルで竹内十次郎海軍少佐という人物。
まったく予備知識がないままの読書で、予想外にも出だし100頁ぐらいは大正政界を揺るがしたシーメンス事件について根気よく読まされる。
 
シーメンス事件とは私が苦手とする贈収賄関連の事件で、この手の事件を読み解くのは非常に難しく、登場人物も多彩、ましてやこの問題は時の内閣が瓦解するほど衝撃的なものだっただけに、難解を極める。
総理大臣は薩摩の山本権兵衛海軍大臣の任命にあたって山本は藩閥以外の岩手県出身、斉藤実海軍大将を起用、斉藤実は後の朝鮮総督、総理大臣、内大臣、そして二・ニ六事件で暗殺された人物でシーメンス事件が起きたのは大正3年1月。
 
問題の竹内十次郎に関する事件は、溯ること10年前の明治37年
この両者の結び付き理解出来ないままシーメンス事件に関する国会質疑などを読んでいかなければならない。
 
シーメンス事件を掻い摘んで言えば、当時の建艦競争を背景に起こった疑獄事件でドイツのシーメンス社が事前に入札情報を手にしライバル会社を出し抜く、この謝礼を示す秘密書類をシーメンス社員のカール・リヒテルという男が会社から盗み出し、買い取るように東京支店長宛脅迫文書を送ったことに端を発するが、それを拒否されたカールはロイター通信社員に書類を売却し本国へ帰ったところをドイツ警察に逮捕され、事件が明るみになった。
 
山本内閣は総辞職、結局、竹内十次郎とシーメンス事件は何の関係もない。
では何故、わざわざシーメンス事件なのかと問えば、どうも、この国会の質疑応答中に野党議員から昔に起きた海軍軍人による公金横領事件の真相はどうなっているのかという質疑があり、故に遠回りして竹内十次郎に辿り着くという手法を取っているわけだ。
 
明治37年、竹内十次郎の階級は主計少監、つまり海軍経理課少佐ということになる。
イギリス出張を命じられ肩書は造船造兵監督官。
発注された軍艦が設計図通りに造られているか監督する役目で、明治35年に現金前渡官吏になり莫大な金を持参していたようだ。
そして明治37年11月、竹内少佐は時価28億円もの金を横領してカナダに逃亡したというのである。
 
翌38年7月、本人の出頭がないまま軍法会議で有罪が確定。
判決は重懲役11年。
38年9月に竹内は免官。
さて、そこで問題なのが果たして額面とおり、竹内が金に目が眩んで持ち逃げしたのか否か。
この本の出版は昭和55年、以来、今日まで謎は解けていないと思う。
竹内が免官になった時の総理は桂太郎
海軍大臣山本権兵衛、次官兼艦政本部長が斎藤実
 
10年後の山本、斉藤とコンビは同じということになる。
ややこしいが竹内のロンドンでの役目は内地還流金、つまり送金係。
それを本国で受け取ったのが名倉良三という軍人。
シーメンス事件のおり、野党の追及に斉藤海相は名倉は病死したと答えているが実は自殺、つまり推論ではこうなる。
名倉は賄賂などの横領で上層部を庇うために自殺、竹内は事実を隠したまま守秘逃亡したと。
それを著者はイギリス、カナダ、そして出身地の桑名と取材して周る。
 
真実は歴史の闇に消えてしまったが、佐木隆三がこの本を書くきっかけとなったのは『造船造兵監督会計官 現金前渡ヲ受ケタル官吏海軍主計少監竹内十次郎保管金費消ニ対スル判決』という文章を見つけたことにあるとか。
いやはや、ノンフィクション作家は大変だが私も疲れた。
 
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