愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

東京ローズ ドウス昌代

 
私にとってローズと言えばジプシー・ローズと東京ローズ以外、まず思い浮かばない。
その東京ローズだが日系アメリカ人で戦時中、連合軍に対しラジオを通じ、何やら謀略放送めいたことをやっていたぐらいの浅い知識しかないが、ただ、東京ローズとは複数女性の総称であって個人名ではないということは知っていた。
 
さてと、今回の本だが以前、古書市で見かけたはよいが、一見するに、あまりにも読み辛そうなので、その場は捨て措き買わずにいたが、いま一度、違う古書市で相まみえ、まあ、読んでみるかと観念、しかし予想に違わず案の定手古摺ってしまった。
何しろ後半からの法廷闘争は検察、弁護側双方の証人喚問など入り乱れて解り難い。
 
国家反逆罪で告訴されたのは1916年生まれのアイバ・戸栗・ダキノという女性。
戦後、いち早く来日したアメリカ人新聞記者の関心は東條の逮捕前インタビューと、東京ローズと言われる謎の女性、GIたちがゼロ・アワーと呼んで、夕飯時にラジオから流れてくる魅惑的な声の持ち主は誰なのか探すことだった。
一説には、エヴァ・ガードナーのようなセクシー女性をイメージしていたらしいが、9月1日、居所を突き止められ自宅に押し寄せた報道陣が見たアイバはエヴァ・ガードナーとは似ても似つかぬ小柄で痩せぎすの女性だった。
だがアイバは「自分は東京ローズではない」単なるDJの一人に過ぎないと強弁。
新聞の見出しには・・・!
 
「プロパガンディスト、東京ローズ、No.5、アメリカGIを下手くそな宣伝放送で楽しませた日本ラジオ・サイレンの一人はロサンゼルス出身のアイバ戸栗と昨日判明」
 
No.5とは5人の内の一人という意味らしいが、結局、アイバだけが起訴された。
そもそもアメリカ生まれの日系二世アイバは何故、日本に渡ったのか。
財を成した父の庇護の下、1940年、大学院に進学。
将来は医師希望の夢を描くも、折悪しく、41年7月5日、日本在住の叔母の体調が悪く、家族を代表して見舞いがてらに来日したのが運命の分かれ目だった。
 
開戦と同時にアイバの立場は敵国人扱いとなり特高に、この際、日本に帰化してはどうかと勧められるもきっぱり拒否。
だが、帰国を願うも、それは敵わず生活のため同盟通信社モニターに、その後、NHK海外局タイピストを経て、軍の意向で南方のアメリカ兵相手のプロパガンダ放送に携わる。
読み上げる原稿は全てイギリス人捕虜ガズンズ少佐という人物が書いたもので、彼等は従う以外選択の余地はなかった。
逮捕されたアイバの罪は、
 
「違法にも故意に謀反の気、充分に叛逆心をもって帝国主義日本を支持し援助」
 
したかどうかを問われる空前の大裁判になった。
アメリカ憲法にいう反逆罪とは以下のことを言う。
 
アメリカ合衆国に忠誠を誓った者で合衆国に反して戦争に加担し敵を支持し、合衆国内またはその他の場所で敵に援助と慰めを与えたる者は反逆罪を犯したとみなす」
 
最高刑は死刑で本国送還となったアイバは叩きに叩かれ、日系市民にも支持されず新聞の論調には、
 
「セクシーで美貌であるはずの東京ローズのイメージから程遠く、魅力のない、ギスギスした、無表情で、釣りあがった目、溌剌とした東京ローズの面影が全然ない」
 
多くの報道機関の予想は無罪だったが陪審員の結論は有罪禁固10年で罰金1万ドル。
叔母を見舞うため、不運にも開戦直前に来日し、渡された原稿を読んでいただけの日本語が不得意の女性。
 
日本でポルトガル人と結婚したため、自分の国籍も判らなくなり6年2か月の留置で特赦が下りたが、まさか一般女性である自分が、反逆罪で裁かれるとは夢、思わなかったろうに。
運命に翻弄されるとは恐ろしいことだ。
 
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