居眠り狂志郎の遅読の薦め

喰う寝る読むだけの素浪人です

黙って行かせて ヘルガ・シュナイダー

 
ナチ戦犯の中でも取り分け悪名高い人物として有名な医師、ヨーゼフ・メンゲレ
アウシュビッツ収容者から「死の天使」と言われ恐れられていたが戦後、忽然と姿を消す。
イスラエル諜報機関は必要にメンゲレを追うが、メンゲレは追跡を逃れ1979年、海水浴中に心臓発作で亡くなるまで南米を逃げ回っていた。
問題は、このような人物を父親に持つ子は当然の如く事実を質したくなる。
 
「お父さん、貴方は本当に人体実験をしたのか?」
 
さて、今回の本、一見、恋愛ドラマかと思わせるようなタイトルだが、本書はオーストリア出身、ヘルガー・シュナイダーという女性作家の自伝的小説で2001年、世界的なベストセラーになった作品だとか。
大戦中、まだドイツが優勢だった1941年、作者の母は夫と幼い二人の子供を残してヒムラー率いる武装親衛隊に自ら志願して入隊。
アウシュビッツ、第二収容所、ビルケナウで女性看守として従事し容赦なくユダヤ人をガス室に送る手助けをしてたという。
 
その母親と離別してから57年後、老人ホームを尋ねて真実を追求する娘。
つまり、メンゲレ親子の女性版のような展開になる。
90歳にもなろうとする母親を問い質し、残忍な親の血が自分にも流れているのだろうかと疑念を抱く。
生殺与奪の権限を持ち、幼子を抱いた母親をガス室送りにすることへの罪悪感はなかったのか。
 
憎しみの代わりに愛を、冷酷の代わりに慈悲を目覚めさせることは出来なかったのだろうかと煩悶する娘。
しかし、親衛隊の隊員だったことを今でも誇りに思い、ヨーロッパ全土のユダヤ人を絶滅させるという固い信念は今以って変わらずナチ政権を崇拝する母。
故に冷酷であらねばならぬと。
 
このような親を持ったことの戸惑いと哀しみ。
最後まで解り合えなかった母娘。
戦時に於ける人間の心理状態は平時では解り難い。
 
あれは何処だったか忘れたが、アイゼンハワー将軍が収容所を視察した時のこと。
悲惨極まりない状況に激怒した将軍は周辺に住むドイツ住民を駆り集め、この惨状を見せろと命令、現存している映像に逮捕されたナチの女性看守たちが映っている。
そう言えば彼女らがその後、どうなったのかあまり知られていない。
無論、ニュルンベルク裁判に女性被告はいないし処刑された女性看守というのも聞いたことがない。
一体、どのぐらいの女性がナチ党員になっていたんだろうか。
 
因みに表紙の写真は4歳の時の作者だとか。
ちょうど、母親と生き別れになった頃のもの。
 
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