愛に恋

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ぽんこつ 阿川弘之

 
例に拠って筑摩文庫、ユーモア小説の復刊、阿川弘之作品の第二弾である。
思うに、昭和30年前後のこれら大衆小説は殆どが絶版の憂き目にあっていることは間違いない。
例えば今日、石坂洋次郎などを読む人がいるだろうか。
おそらく本人たちも将来、自分らの作品が残るとは思っていなかったのではないだろうか。
 
しかし、だからと言って読むには値しないと言っているわけではない。
戦後の混乱期を経て、池田首相の言う「もはや戦後ではない」という時代の風俗や若者の結婚、恋愛観を知るにはまずは最適な作品とも言える。
映画産業が娯楽のトップだった頃には文藝作品、時代劇と並んでお手軽ものとして欠かすことの出来なかった原作ではないだろうか。
 
本書は昭和34年9月から翌年10月まで読売新聞で連載されたものらしいが、調べてみるとやはり、昭和35年佐久間良子主演で映画化されている。
これまで読んできた獅子文六源氏鶏太阿川弘之作品は全て映画化されているが、何れの作品も観たことがない。
DVD化されているのだろうか?
 
さて、内容だが「ぽんこつ」とはつまり「ぽんこつ屋」の事で、廃車になった車を引き取り、使える部品だけを取り出し注文に応じてその部品を売る仕事のことを言っているのだが主人公の和子の兄が買ったばかりの中古車で事故を起こし即死するところから始まる。
その廃車となった兄の車を買い取ったのが通称「マケトシ」と呼ばれている熊田勝利
油まみれで働くマケトシと歯科医の娘で大学生の和子の徐々に進展していくラブロマンスと言ったところだが、はっきり言えば、この手の作品の感想文は、あまり書くことがない。
 
要は面白いか、まあ、それほどでもなかったかぐらいで、勿論、映画化されているわけだから、そうそう嫌うほどの作品ではないのだが。
前回の『カレーライスの唄』は会社が倒産し、 考えた末、美味しいカレーライスの店を始める若い男女の恋と失業と起業の奮闘記だったが、今回は、これまた若い男女が結婚して二人でポンコツ屋を始める恋愛もの。
どうも、題材が似通っているような気もするが、ただ前作では株に関しての知識、本作は車に対する知識が必要な他はこれと言って感心するような文体はない。
 
少々、自惚れだが、このぐらいなら自分でも書けると思わせてしまうような小説だ。
勿論、解ってます。言うのは簡単だというぐらいは。
ところで、阿川弘之の作品は長い。
2冊とも500頁を超える。
何れにしても、このようなユーモア小説は、やはり一時代を反映しているのであろう。
ただ、一カ所、笑わかしてくれる場面があった。
それを書いておく。
和子の友人がボーイフレンドに誘われて箱根にドライブに行った。
そこで間違いが起き急に婚約と相成ってしまったが、それを心配して和子の母親が言う。
 
「生理的事故って言うんですってね、あの人たちの間で。油断なんか出来ませんわ」
 
すると、それを聞いた父親が答える。
 
「生理的事故か? アハハ、上手いことを言うな。桃の香や生理的事故も遠くなりにけ
 り。こっちは、年をとるわけだ。ワハハ」 
 

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