愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

生きるコント 大宮エリー

 
エッセイストというのは、何でもない話しを何でもあるように書き換える翻訳者みたいな職業だと思っている。
日常の生活の中で話題の種になるような事柄を見事に救い上げ料理する。
林扶美子は「翻訳とはチャーハンみたいなものかな」と言っているが、将にその通り。
ただし、文豪的な一流料理人ではなく料理上手な主婦の場合の方が、意外と面白いこともある。
何故か、話しが下らない故だ。
それが庶民には痛く面白い。
つまりは、エロやウンコの話しなどオッサン化した女性の文筆力如何では痛快至極。
いや、誤解なきよう、決して貶している訳では御座らぬ。
 
ところで、大宮エリーなる女性をご存じだろうか。
私、迂闊にも全く相存ぜぬ御仁であって、今回、初めて、その存在を知った。
『生きるコント』などと言うタイトルからして本来なら絶対に読むべきに非ず作品なのだが、みんなが面白い面白いというので、どれ、という気持ちで買ったわけだが。
くどいようだが、タイトルは『生きるコント』であって「ヒント」ではない。
 
経歴だが知らぬは私ばかり也で意外と凄い。
東大卒、脚本家、CMディレクター、映画監督、作家、エッセイスト、コピー・ライター、演出家、ラジオパーソナリティと多彩な才能を各分野で発揮している。
過去、唯一の職歴が電通で現在41歳独身。
本作の上梓は2008年で初めての本だたらしい。
 
さて、面白さという点では先の『ないもの、あります』の方が良かったが、こちらは空想話しではないのでリアル観がありほくそ笑む場面も多々ある。
例えば子供時代のこと、両親と一緒に浅草寺に行っておみくじを引く話し。
 
「凶やった」暗い顔でおとんのところへ行くと「可哀そうに、もういっぺん引いてき
 ぃ」と言い、重ねて「そんなもん、納得いくまで引いたらええんや!」
「凶がでなくなるまで」引けと。
結果、7回連続で凶!
8回目にやっと大吉、すると、おとんは!
 
「でかした!」
 
ロス滞在中のこと。
英語の勉強にとビデオを大量に購入、そしてレジに並ぶ。
夕飯時でレジには長蛇の列。
しかし、店員はレジを打つたび、その一本一本の解説を始める。
次第に行列は増えていく。
そんなことはお構いなしに店員は感想を述べる。
すると後ろの方から「君は映画評論家か!」と野次が入る。
そして店員はこう切り返す。
 
「そうよ!、このスーパーの映画評論家よ!」
 
さらに彼女は大の虫嫌い。
昔、ボロアパートで男と同棲中、不俱戴天の敵、ゴキブリが出た途端、実家に逃げ帰り、そのまま別れたと。
虫が出るたびに、マトリックスのようにのけぞるエリー。
 
「夜中にむしゃくしゃすると、プロ用の自転車にまたがり『バカヤロー』と叫びながら前傾姿勢で一心不乱に旧山手通り漕ぎまくる女を見たら、それはたぶん、わたしです」だって。
 
面白いタイプの東大卒ですね!
こんなこともあったとか。
機内でワイン2本を空けトイレに行くと・・・!
 
4年半付き合ったのに、きちんと別れ話もせずに会わなくなった元カレのことを思い出し、ああ、あんなに好きだったのに、そういえば別れちゃったんだな。
ふとそう思うと自分でも驚いたが、わたしは突如、声を上げて泣き始めたのだ。
なんで?
もう2年も前のことなのに。
 
う~ん、刺激的だ!
更に魅力を高めるような発言。
映画監督のくせに、これまで見た作品は25本。
七人の侍』を『ナナニンの侍』と読んだとか(笑
ホントかよオイ!
酒を呑んで屋外で寝込んでしまい、ゴキブリを熱湯で退治しようと思い、誤って自分に掛けて病院へ。
 
そんなエリー様を可愛がっているのが先輩評論家のおすぎ。
曰く、おかまっぽいところがいいとか。
って、どんな意味?
 
先にも書いたが、この人、テレビにも出ているそうだが一度も見たことがない。
注意していないからなのかよく分からないが、一度、どんな女性なのか見てみたい。
 
人を笑わせるコツと言えば自慢話しは禁句。
あくまでも自虐的に語る。
そういう面でこの本は成功していると思う。
女としての敷居は低く保ち、情感豊かにして繊細。
磊落で奔放且つ大胆。
 
ブラジルにカーニバルを一人で見に行き、何とビキニのまま夜のバスに乗り込むという超ハードな離れ業。
イカしているではないか。
表現力の素晴らしさというよりは、彼女の持つ濾過器が優れていると言った方が適当かも知れない。
 
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