愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

九月が永遠に続けば 沼田まほかる

 
本書はデビュー作にして第五回ホラーサスペンス大賞受賞作で著者56歳の作品。
解説者はこのように書いている。
 
無論、どの賞も建前としては作者の年齢などは考慮しないことになっているけれども、現実には作者の年齢、筆歴などは多少評価に関係してくるものである。
実際、新人賞の予選会などで、ほぼ同等の実力の応募者のどちらかを残さなければならに場合など「やはり将来性のある若い人のほうを・・・」と言った意見が出ることは珍しくない。
 
選考委員の中にはこんな意見の人もいる。
 
『九月が永遠に続けば』は文章力で大賞を勝ち取った作品です。
 
私も同感だ!
例えばこんな一説。
夫と離婚して久方ぶりに男に抱かれる場面で。
 
足首の犀田が触れたところが、軽い火傷の痕のように疼いた。彼の手が触れたせいで、どこか身体の深いところに眠っていた哀しみが目覚めてしまったらしかった。
 
これは素晴らしい文章でしょう!
なかなか、こうは書けない。
または!
 
女は、あるいは男は、ある年齢になると醒めた目で相手の実情を見つめながら恋に溺れるということが可能になるらしい。
 
優れた洞察力ですね。
小説家はやはりこうでないといけません。
更にはこの文章も気に入りました。
 
この俗物の上に胡坐をかいたような雰囲気を常に発散し続ける人物への、抑えがたい苛立ちだった。
 
そして私を感服させた文章がこれ!
 
たとえ愛のない妊娠であったとしても、と雄一郎は私に言った。愛のない妊娠。
その言葉にどれだけ苦しんだことか。愛情などなくとも抱きすくめずにいられない。
抱きすくめて我を忘れ、不用意に妊娠させてしまう。雄一郎のような男をそこまで駆り立てる亜沙実の何か、あの雄一郎に、医師としての熟練も、使命感も、家族を思う気持ちも何もかも捨てさせて、激情の中に引きずり込んでしまう亜沙実の何か、亜沙実にあって私ににはない、その何かのために、どれだけ胸をかきむしったことか。
 
こんな文章を読むと、当に本人に是非会いたくなる。
素晴らしい観察力だ。
また、母子の関係についてはこう書いている。
 
母親っていうのは、自分の命ごと子供に縛りつけられてしまっていて、自分ではそれをどうすることも出来ないんです。
 
ただ、内容的には少しグロテスクな相貌も垣間見えて、読んでいて多少不愉快な部分もある。
主要登場人物はそんなに多くはないが、それぞれの関係がやや錯綜しているので注意が必要。
しかし、この著者の凄いところは解説者も書いているが露悪的な場面を克明な描写で書いてしまうところだろうか。
私では躊躇してとても書けない場面だが。
 
ともあれ、500頁という長編だがかなりお薦めの1冊には間違いない。
 
 
ブログ村・参加しています。
ポチッ!していただければ嬉しいです♡ ☟