居眠り狂志郎の遅読の薦め

喰う寝る読むだけの素浪人です

もっと知りたい ミュシャの世界

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私にとって好奇心の対象となる人物、それは、何を残したかというよりは、どう生きたかという方に重点が置かれる。
そういう意味では大芸術家ゲーテも乞食行脚の辻潤も同列と考えている。
で、今回の対象者はアルフォンソ・ミュシャだが、この一見、男だか女だか分らない名の人物、誰しもが、その作品から知名を得ることが多かろうと思う。
 
私もそのひとりだが、更に、永年私を惑わせた問題にサラ・ベルナールイサドラ・ダンカンの混同。
同時代を生きたこの二人の区別が紛らわしく苦しんで来た(笑
更に言わせてもらえば、ミュシャが書いたサラの絵が、あまりにも繊細なタッチだった故に作者は女性と思い込んでいた。
 
まあ、それら昔の話しはともかく、実際は髭もじゃ男、アルフォンソ・ミュシャとは何者なのか。
1860年のモラヴィア、つまり現チェコ共和国生まれということになる。
なるほど、その生涯を考える上で最も大事なのはスラブ民族という点だ。
日本人は戦後の7年間、アメリカの統治下にあったという体験はあるものの、チェコのように300年に渡って国家が消滅していたような経験はない。
従って、チェコを代表する二人、即ちスメタナミュシャのような芸術家は民族の独立という強固なイデオロギーを持った上での、あの大芸術だったと言うべきかも知れない。
 
余談が永くなったがアルフォンソ・ミュシャの家系は芸術とは何の関係もない普通の家柄だったとある。
父は公務員、母は粉屋の娘、しかし、手先の器用な少年は音楽や美術に関心が強く、何でも運命を変えた出来事というのは、全くのifから始まったと言う。
ある時、ボヘミア方面に向かう列車の車窓から外の景色を写生していた。
その後、何を思ったのかミクロフという駅で意味もなく下車し、たまたま立ち寄った店で車内で描いた絵を見せたことから、そのあまりの出来栄えにみんなが驚き、地元の名士の肖像画の依頼が舞い込み、この見知らぬ町に長期滞在ということになった。
 
そして運命の人、ミクロフの大地主クーエンーベラシ伯爵、弟のエゴン伯爵の御眼鏡にかないパトロンの座を約束してもらうことになった。
運命の糸とは本当に分からないものだ。
更にはエゴン伯爵の友人の紹介でミュンヘンのアカデミーに進学。
そして2年後にパリ留学。
人生最大の転機が訪れたのは1894年12月のクリスマス、サラ・ベルナールが正月公演で主演を務める新作『ジスモンタ』のポスター制作の依頼が舞い込んだ。
 
ポスターなど描いたことがなかったミュシャだったが、ここが勝負どころと判断、二つ返事でOKサイン。
これが12月28日、そして元日に『ジスモンタ』を完成、即座に印刷所に回され、それがパリの街中、至るところに張り出され一躍時代の寵児となっていった。
その後、サラはミュシャと6年間の契約を結び栄光の時代の訪れとなる。
 
しかし、ミュシャ最大の目標はポスターとしての絵描きではなくスラブ民族の苦難を描く『スラブ叙事詩』完成にあったのだろう。
この大作20点は見るからに壮大な絵巻で一点の横幅が何と6メートルを超す大作。
順番に言うとこうなる。
 
1 原故郷のスラブ民族
2 ルナヤ島のスヴァントヴィト祭
3 スラブ式典礼の導入
4 ブルガリア皇帝シメオン
5 プジェミスル朝のオタカル2世
6 東ローマ帝国となったセルヴィア皇帝シュテパン・ドゥシャン
7 クロムニェジージェのヤン・ミリーチ
8 グリュンヴァルトの戦い
9 ベツレハム礼拝堂で説教をするヤン・フス
10クジージュキでの礼拝
11ヴィトコフ丘の戦いが終わって
12ペトル・ヘルチツキ
13フス派の王イージー・ポジェブラッド
14ニコラ・ズリンスキーによるトルコに対するシゲトヴァール要塞の防衛
15イヴァンチッツェの兄弟団学校
16ヤン・アモス・コメンスキー
17聖アトス山
18スラヴ菩提樹の下でのオムアディナの誓い
19ロシアの農奴性廃止
20スラヴ賛歌
 
サラを描いたポスターの数も凄いが、これら『スラブ叙事詩』を描くにはよほどスラブ史を勉強しなければ描けない。
1918年、悲願の民族独立。
長いゲルマン民族から独立を勝ち取ったスラヴ人
その民族独立の集大成が『スラブ叙事詩』だったが、1939年3月、チェコに侵攻したドイツ軍、そしてゲシュタポによる逮捕。
 
「作品が国民の愛国心を刺激した」
 
が、逮捕の決め手だった。
78歳になっていたミュシャは激しい尋問に耐え切れず7月14日に死去。
スラヴ人だから当然、民族を鼓舞する絵も描くだろう。
それがゲルマン民族からすれば気に入らないとは至極、理不尽な。
だが、それが戦争というものだ。
ミュシャは絵画やポスターにとどまらず工芸品やブロンズ像などでも素晴らしい作品を残しているが、今日、それらは人類の財産だろう。
 
 
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