居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

評伝・伝記・自伝

椎の若葉に光あれ 葛西善蔵の生涯 鎌田 彗

芸術作品と言えども一世紀も経れば評価も定まり、現在の価値と相容れぬ作品などは自然淘汰され、作者と共に忘れ去られていく運命にあるようだ。 葛西善蔵、今日、彼の文学が読まれることはあまりないだろう。 例えば葛西を取り巻いていた当時の貧乏文士たち…

東條英機の妻・勝子の生涯 佐藤早苗

映画『日本のいちばん長い日』は、取り分け私の好きな映画で、これまで何度も鑑賞しているが阿南陸相演じる三船敏郎は言うに及ばず、クーデターに参加した畑中少佐を演じた黒沢年男の演技も光っていた。 中でも見せ場は森近衛師団長殺害の場面だが蹶起失敗に…

島田清次郎 誰にも愛されなかった男 風野春樹

島田清次郎という小説家をいつ、どのように知ったのか全く覚えがないが昭和37年に直木賞を受賞した杉森久英氏の『天才と狂人の間』という伝記小説を古本屋で探し出して以来の対面となる。 今日、島清こと島田清次郎の名を知る人は少なく、その作品を探すのさ…

恋の蛍: 山崎富栄と太宰治 松本侑子

私にとって太宰治は、その作品以上に心中事件の比重の方が大きい。 この事件には「魅了」されるような魔力が潜んでいる。 事実、有島武郎の心中に比べると、その関連図書に於いては比較にならない。 故に繰り返し読むのではなく読まされてしまう自分に飽きれ…

田村俊子 この女の一生 瀬戸内晴美

発売後、半世紀以上の月日が経過しているが、瀬戸内さんが今も健在なのは大変喜ばしい。 しかし寂聴と改名されてからの本はあまり読んでいない。 もっぱら晴美時代の伝記小説を数冊読ませて頂いたが、何れも力作揃いでお薦め作品ばかり。 田村俊子の作品は1…

ロルカ スペインの魂 中丸 明

ヨーロッパの歴史というのは実に分かりにくい。 王位の継承、国境線の変更、宗教問題、長ったらしい名前と地理。 塩野七生さんのようにイタリアに住んでイタリア史ばかり書いている人が羨ましい。 中丸明という作家も負けず劣らずスペイン史ばかりを得意とし…

追想 芥川龍之介 芥川文

菊池寛はこんなことを言っている。 「故人老いず、生者老いゆく恨みかな」 芥川や直木を偲んでの発言であることは間違いない。 時間は無情にも生者にのみ長れていく。 芥川文さんが未亡人になったのは28歳の時。 それからの40年、夫への思いを訊き語りして…

漂泊者のアリア 古川薫

昔、その訃報記事で初めて藤原義江の名を知った。 調べてみると昭和51年3月のことで、大正から昭和にかけて活躍したオペラ歌手だが、何分古い話しで、その日までまったく知らない人だった。 直木賞受賞作の本書は以前から知ってはいたが既に絶版でなかなかお…

書斎は戦場なり 小説・山田美妙 嵐山光三郎

かなり前のことになるが、BSだったかCSだったか児玉清さん司会の「ブック・レビュー」なる番組があった。 毎週見ていた関係で初めてこの山田美妙という明治の作家のことを知った。 確か単行本では「美妙、消えた」というタイトルではなかったかと思うが、そ…

兄のトランク 宮沢清六

宮沢賢治という人は戦前の文壇では特異な存在だろう。 というか文壇の枠外で屹立しているような作家のように思う。 菅原千恵子著『宮沢賢治の青春』という本を読むと、唯一人の親友保阪嘉内との宗教観の違いから袂を分かつ場面が書かれているが賢治には耐え…

黄色い虫: 船山馨と妻の壮絶な人生 由井 りょう子

船山馨の名前を知ったのは、その死を報じる新聞だったと思う。 作品を読まないまま伝記本を通読してしまったが、船山の死んだ当日夜、妻も後を追うように亡くなったということが印象深い。 船山馨の物語というよりは妻春子との借金、薬物中毒物語と言ったほ…

清冽 - 詩人茨木のり子の肖像 後藤正治

書店の詩歌コーナーに行くと必ずこの人の詩集が置いてあるが読んだことがない。 中でも晩年の作『倚りかからず』という詩集は異例の10万部を売り上げたとか。 若い頃の写真を見るに知的で端正な顔立ちから育ちの良さが伺われる。 彼女は詩について、このよ…

夢を食いつづけた男 おやじ徹誠一代記 植木等

はじめに。 同時代人の先輩に対しては当然、敬称を持ちうるべきだが、個人的な読書感想文なので敢えて敬称は略させてもらった。悪しからず。 中山秀征司会の『うちくる!?』という番組が一昨年だったか終了したが、あれはいつだったか、まだ飯島愛がアシス…

エディット・ピアフという生き方 山口路子

何の問題も起こさず真面目に生き抜くということはいい事だと思うが、反面、ゴシップとスキャンダルに彩られたこのような人たちをどう見ればよい。 ビリー・ホリディ、ジュディー・ガーランド、エラ・フィッツジェラルド、マリリン・モンロー、ビビアン・リー…

大正美人伝―林きむ子の生涯 森まゆみ

林きむ子とは所謂、大正三美人の一人で林姓は再婚相手の名前。 九条武子、柳原白蓮と並んで世情を賑わした美貌の持ち主だというが、なるほど、写真を見ると品性と知性にも恵まれていた才媛なのだろうか。 義大夫語りの娘で、新橋料亭「浜の家」の養女となり…

女優万里子 佐藤愛子

現在、存命の作家で祖父が武士だったという人はおそらく佐藤愛子を於いて他にいないと思うがどうだろう。 祖父、弥六は何と阿片戦争が終結した1842年(天保13年)弘前生まれで沖田総司、大山巌と同年齢だとか。 福沢諭吉の門下生で幼児の頃から秀才の誉れ高…

父・萩原朔太郎 萩原葉子

室生犀星が言うように萩原朔太郎は不世出の天才詩人だろう。 私個人も詩人の中では断トツに朔太郎ファンだが、しかし、娘葉子の目を通して見ると、いや家族の目には実に異彩というか変人のように映っていたのかも知れない。 何しろ癖の多い人だった。 出かけ…

父・藤沢周平との暮し 遠藤展子

藤沢周平という作家はかなり多くの作品を残したが私が読んだ本はたったの二冊。 『回天の門』と『雲奔る 小説・雲井龍雄』だけで他に『蝉しぐれ』という映画を一本観ている。 『回天の門』は幕末の志士、清河八郎を描いた作品だが清河と藤沢さんは郷里が同じ…

直木三十五伝 植村鞆音

直木賞に名を残しながらも、これほど読まれなくなった作家も珍しい。 現在ではまず、その作品を探し出すことから始めなければならず、彼の小説に巡り合うことは殆どない。 本書は直木の甥、つまり弟の息子によって書かれた初の本格的評伝。 その昔、私は直木…

淳之介さんのこと 宮城まり子

今の時代、まるで魔女狩りのように芸能人の不倫を暴き公開裁判よろしく昼の情報番組などで週刊誌ネタを元に同じ芸能人が被告を吊るし上げているが、不倫の是非はともかく一般社会ではおそらく5万という人が不倫を経験していると思う。 瀬戸内寂聴は「だって…

伊藤晴雨物語 団鬼六

画家、伊藤晴雨なる人物を知ったのは、ほんのここ2~3年前のことで、それも思わぬところからその名を得た。 竹久夢二の愛人、お葉の経歴から伊藤晴雨にたどり着き意外だったのはお葉の過去。 本名は佐々木カ子ヨ(カネヨ)。 藤島武二、伊藤晴雨、竹久夢二の…

バーボン・ストリート・ブルース 高田渡

私が記憶する限り子供時代の音楽番組といえばクレージーキャッツとザ・ピーナッツ 主演の『シャボン玉ホリディ』か、坂本九、弘田三枝子、坂本スミ子、黒柳徹子らが出演していた『夢で逢いましょう』ぐらいしか知らない。 『シャボン玉ホリディ』の音楽監督…

泳ぎたくない川 愛川欽也

日本人にとって愛川欽也という人は最も親しまれた司会者だったと言っても過言ではない。 『11PM』『なるほど!ザ・ワールド』『アド街ック天国』など長寿番組の顔として知られると共に俳優としても大いに活躍した人生だった。 芸能界には『9年会』なるものが…

下足番になった横綱―奇人横綱男女ノ川 川端要寿

今迄、自称好角家を名乗って来たが、いやはや、全くの勉強不足を痛感させられた1 冊で、第三十四代横綱男女ノ川(みなのがわ)の存在、全然知らなかった! 何でも、あの大横綱双葉山に稽古をつけてやったのが男女ノ川と聞いてはなお一層興味が湧く。 横綱昇…

ヘミングウェイの流儀 今村楯夫 山口淳

私の父は生前、ゲーリー・クーパーのファンで、とにかくクーパーの話しが大好き。 そのクーパーが前立腺癌で亡くなったのが1961年5月13日、60歳だった。 それを聞いた親友のヘミングウェイの落ち込みは相当なもので、同年7月2日に猟銃自殺している。 遺書も…

ハルビンの詩がきこえる 加藤淑子

著者、加藤淑子とは加藤登紀子の母で1915年生まれ。 私の父より一歳年長で共に大陸で終戦を迎えている人。 以前、紹介した『流れる星は生きている』の作者で新田次郎の妻、藤原ていは18年生まれ、夫次郎は12年生まれ。 ソ連参戦を聞いた時、加藤淑子はハルビ…

夫・遠藤周作を語る 遠藤順子

私が遠藤周作さんを読んでいたのは、思い出すにおそらく昭和49年頃ではなかったかと思うが、どうもはっきりせぬ。 五木寛之と交互に読んでいたことは確かなのだが。 しかしキリスト教を扱った純文学ではなく大衆文学的なものばかり読んでいた。 例えばこんな…

蝦蟇の油 自伝のようなもの 黒澤明

世界の黒澤といっても、その生い立ちはと言われれば全く知らない。 そこで手に取ってみた自叙伝。 しかし内容は『羅生門』までの前半期しか書かれていない。 『七人の侍』や監督を降板させられた『トラ・トラ・トラ』に関しては分からず仕舞いだった。 だが…

半自叙伝  菊池寛

この本は芥川の死の翌年、昭和3年から4年にかけて書かれたものらしいが、とにかくあまりにも古いので、その交友関係で登場する人物など一般的にはあまり知られていないような人の記述なども多く、やや分かりにくい。 さらに目次がなく思い出すままに書き連ね…

風雲回顧録 岡本柳之介

明治45年刊行の本だけあってさすがに読み辛い。 著者、岡本柳之助とは明治11年の竹橋事件や同28年の閔妃暗殺事件クーデターの首謀者として名高いが、本人はそのあたりついてはあまり語っていない。 紀州人で陸奥宗光の後輩になり60歳で上海で客死。 復刻本好…