居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

評伝・伝記・自伝

兄のトランク 宮沢清六

宮沢賢治という人は戦前の文壇では特異な存在だろう。 というか文壇の枠外で屹立しているような作家のように思う。 菅原千恵子著『宮沢賢治の青春』という本を読むと、唯一人の親友保阪嘉内との宗教観の違いから袂を分かつ場面が書かれているが賢治には耐え…

黄色い虫: 船山馨と妻の壮絶な人生 由井 りょう子

船山馨の名前を知ったのは、その死を報じる新聞だったと思う。 作品を読まないまま伝記本を通読してしまったが、船山の死んだ当日夜、妻も後を追うように亡くなったということが印象深い。 船山馨の物語というよりは妻春子との借金、薬物中毒物語と言ったほ…

清冽 - 詩人茨木のり子の肖像 後藤正治

書店の詩歌コーナーに行くと必ずこの人の詩集が置いてあるが読んだことがない。 中でも晩年の作『倚りかからず』という詩集は異例の10万部を売り上げたとか。 若い頃の写真を見るに知的で端正な顔立ちから育ちの良さが伺われる。 彼女は詩について、このよ…

夢を食いつづけた男 おやじ徹誠一代記 植木等

はじめに。 同時代人の先輩に対しては当然、敬称を持ちうるべきだが、個人的な読書感想文なので敢えて敬称は略させてもらった。悪しからず。 中山秀征司会の『うちくる!?』という番組が一昨年だったか終了したが、あれはいつだったか、まだ飯島愛がアシス…

エディット・ピアフという生き方 山口路子

何の問題も起こさず真面目に生き抜くということはいい事だと思うが、反面、ゴシップとスキャンダルに彩られたこのような人たちをどう見ればよい。 ビリー・ホリディ、ジュディー・ガーランド、エラ・フィッツジェラルド、マリリン・モンロー、ビビアン・リー…

大正美人伝―林きむ子の生涯 森まゆみ

林きむ子とは所謂、大正三美人の一人で林姓は再婚相手の名前。 九条武子、柳原白蓮と並んで世情を賑わした美貌の持ち主だというが、なるほど、写真を見ると品性と知性にも恵まれていた才媛なのだろうか。 義大夫語りの娘で、新橋料亭「浜の家」の養女となり…

女優万里子 佐藤愛子

現在、存命の作家で祖父が武士だったという人はおそらく佐藤愛子を於いて他にいないと思うがどうだろう。 祖父、弥六は何と阿片戦争が終結した1842年(天保13年)弘前生まれで沖田総司、大山巌と同年齢だとか。 福沢諭吉の門下生で幼児の頃から秀才の誉れ高…

父・萩原朔太郎 萩原葉子

室生犀星が言うように萩原朔太郎は不世出の天才詩人だろう。 私個人も詩人の中では断トツに朔太郎ファンだが、しかし、娘葉子の目を通して見ると、いや家族の目には実に異彩というか変人のように映っていたのかも知れない。 何しろ癖の多い人だった。 出かけ…

父・藤沢周平との暮し 遠藤展子

藤沢周平という作家はかなり多くの作品を残したが私が読んだ本はたったの二冊。 『回天の門』と『雲奔る 小説・雲井龍雄』だけで他に『蝉しぐれ』という映画を一本観ている。 『回天の門』は幕末の志士、清河八郎を描いた作品だが清河と藤沢さんは郷里が同じ…

直木三十五伝 植村鞆音

直木賞に名を残しながらも、これほど読まれなくなった作家も珍しい。 現在ではまず、その作品を探し出すことから始めなければならず、彼の小説に巡り合うことは殆どない。 本書は直木の甥、つまり弟の息子によって書かれた初の本格的評伝。 その昔、私は直木…

淳之介さんのこと 宮城まり子

今の時代、まるで魔女狩りのように芸能人の不倫を暴き公開裁判よろしく昼の情報番組などで週刊誌ネタを元に同じ芸能人が被告を吊るし上げているが、不倫の是非はともかく一般社会ではおそらく5万という人が不倫を経験していると思う。 瀬戸内寂聴は「だって…

伊藤晴雨物語 団鬼六

画家、伊藤晴雨なる人物を知ったのは、ほんのここ2~3年前のことで、それも思わぬところからその名を得た。 竹久夢二の愛人、お葉の経歴から伊藤晴雨にたどり着き意外だったのはお葉の過去。 本名は佐々木カ子ヨ(カネヨ)。 藤島武二、伊藤晴雨、竹久夢二の…

バーボン・ストリート・ブルース 高田渡

私が記憶する限り子供時代の音楽番組といえばクレージーキャッツとザ・ピーナッツ 主演の『シャボン玉ホリディ』か、坂本九、弘田三枝子、坂本スミ子、黒柳徹子らが出演していた『夢で逢いましょう』ぐらいしか知らない。 『シャボン玉ホリディ』の音楽監督…

泳ぎたくない川 愛川欽也

日本人にとって愛川欽也という人は最も親しまれた司会者だったと言っても過言ではない。 『11PM』『なるほど!ザ・ワールド』『アド街ック天国』など長寿番組の顔として知られると共に俳優としても大いに活躍した人生だった。 芸能界には『9年会』なるものが…

下足番になった横綱―奇人横綱男女ノ川 川端要寿

今迄、自称好角家を名乗って来たが、いやはや、全くの勉強不足を痛感させられた1 冊で、第三十四代横綱男女ノ川(みなのがわ)の存在、全然知らなかった! 何でも、あの大横綱双葉山に稽古をつけてやったのが男女ノ川と聞いてはなお一層興味が湧く。 横綱昇…

ヘミングウェイの流儀 今村楯夫 山口淳

私の父は生前、ゲーリー・クーパーのファンで、とにかくクーパーの話しが大好き。 そのクーパーが前立腺癌で亡くなったのが1961年5月13日、60歳だった。 それを聞いた親友のヘミングウェイの落ち込みは相当なもので、同年7月2日に猟銃自殺している。 遺書も…

ハルビンの詩がきこえる 加藤淑子

著者、加藤淑子とは加藤登紀子の母で1915年生まれ。 私の父より一歳年長で共に大陸で終戦を迎えている人。 以前、紹介した『流れる星は生きている』の作者で新田次郎の妻、藤原ていは18年生まれ、夫次郎は12年生まれ。 ソ連参戦を聞いた時、加藤淑子はハルビ…

夫・遠藤周作を語る 遠藤順子

私が遠藤周作さんを読んでいたのは、思い出すにおそらく昭和49年頃ではなかったかと思うが、どうもはっきりせぬ。 五木寛之と交互に読んでいたことは確かなのだが。 しかしキリスト教を扱った純文学ではなく大衆文学的なものばかり読んでいた。 例えばこんな…

蝦蟇の油 自伝のようなもの 黒澤明

世界の黒澤といっても、その生い立ちはと言われれば全く知らない。 そこで手に取ってみた自叙伝。 しかし内容は『羅生門』までの前半期しか書かれていない。 『七人の侍』や監督を降板させられた『トラ・トラ・トラ』に関しては分からず仕舞いだった。 だが…

半自叙伝  菊池寛

この本は芥川の死の翌年、昭和3年から4年にかけて書かれたものらしいが、とにかくあまりにも古いので、その交友関係で登場する人物など一般的にはあまり知られていないような人の記述なども多く、やや分かりにくい。 さらに目次がなく思い出すままに書き連ね…

風雲回顧録 岡本柳之介

明治45年刊行の本だけあってさすがに読み辛い。 著者、岡本柳之助とは明治11年の竹橋事件や同28年の閔妃暗殺事件クーデターの首謀者として名高いが、本人はそのあたりついてはあまり語っていない。 紀州人で陸奥宗光の後輩になり60歳で上海で客死。 復刻本好…

残夢 大逆事件を生き抜いた坂本清馬の生涯 鎌田 慧

坂本清馬という人の名は諸々の本で一度ならず読んだことがあったのだろうが、はっきり記憶に留めていなかった。 それ以上に大逆事件で有罪になった24名中12名が処刑され終身刑に減刑された12名のその後については全く知らずにいた。 本書は、この坂本清馬が…

映画道中無我夢中 浦辺粂子の女優一代記

あれは昭和60年の夏だったと思う。 仕事で伊豆は下田の駅に降り立った時、左手に小高い山を見つつ、実にいい所に来たものだと感嘆したものだった。 幕末以来の、この歴史深い街に一度は行ってみたいと思っていたが、まさか仕事で来るとは予想だにしていなか…

子規、最後の八年 関川夏央

なんとか読み切ったけど疲れた。 それにしても子規の晩年はあまりにも哀しい。 絶叫、号泣、正岡子規と言ったところだろうか。 「試みに我枕もとに若干の毒薬を置け。而して余が之を飲むか飲まぬかを見よ」 想像を絶する痛みの中でよくも耐えて書き続けたも…

小説 永井荷風 小島政二郎

小島政二郎とは芥川時代の人だが平成の世まで生き、満百歳で没した文壇きっての長者だ。 この本が書かれたのは昭和47年とあるが、以来、約30年、永井家の許可が下りず長い間、日の目を見なかった作らしい。 それもそのはず、著者は大の荷風崇拝者でありなが…

寺田寅彦は忘れた頃にやって来る 松本 哉

まず、寺田寅彦と言えば「天災は忘れた頃にやって来る」という格言を残したことで有名だが、私の知っている寺田寅彦とは、その程度でしかなく、他に、漱石門下の人で、随筆「柿の種」を著したことぐらいかしか知らない。 特段、寺田寅彦に興味があったわけで…

談志が死んだ 立川談四楼

相撲のことならともかく、落語となると全く無知な私だが、とにかくタイトルが気になり、立川談志とは如何なる人だったか、一度、読んでみようと手に取ってはみたが、やはり素人目には簡単とは言えない本だった。 内容がというわけではなく、登場人物がまず分…

自伝 若き日の狂詩曲 山田耕筰

これは山田耕筰自らが書いた自伝だが、どういうわけかベルリン留学から帰国した1914年で終わっている。 耕筰は明治19年生まれで、その生い立ちを読んでいて少し驚いた。 勿論、私とは全く違う世代だが晩年の10年程、この世で重なる時期がある。 出自は母の再…

ドストエフスキー伝

まあ、はっきり言って疲労困憊。 736ページという大著もさることながら人名がロシア語とあっては読み辛い。 しかしながら我が町関西ではまず以って見つける事の出来ない本、それを態々、神保町まで行って買ったとあらば解っても分からなくても意地でも読み通…

石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人 早瀬利之

かれこれ20年ぐらい昔になるだろうか。 NHKスペシャルで張学良を特集し、何と本人が登場したから驚いた。 まるで浦島太郎に遭遇したような気持ちだったが、キャスターのインタビューに満100歳を迎えた学良は矍鑠とした風貌で記憶も正しく受け応え。 この歴史…