愛に恋

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美術関連・写真(読書録)

夭折の画家 佐伯祐三と妻・米子 稲葉 有

佐伯祐三が画家の道に進もうと思った動機は武者小路実篤の『その妹』を読んで感動したからとある。 戦地で失明し、画家になれなかった主人公に代わり自分が絵の道に進みたいと思い、武者小路にファンレター送ったと。 その手紙を武者小路家に出入りしていた…

アンリ・ルソー 楽園の謎 岡谷公二

アンリ・ルソーとはこんな絵を描く人だが実に変わっている。 代々フランスのブリキ職人で父は不動産業にも手を出していたらしいが、全く美術史の中に系譜を持たない彼は一族の中でも変わり者の絵描きと思われ、原因として従妹同士で結婚した親族がいたことか…

ミレーの名画はなぜこんなに面白いのか 井出 洋一郎

絵画史上、印象派の一世代前に隆盛を極めたバルビゾン派の拠点、バルビゾン村はパリから南へ約60㌔の地点にあるらしい。 発端は、この地方に一軒しかなかった食糧品屋が1824年に「ガンヌの宿」なるものを開業し、ここを根城に多くの画家が参集したことに始ま…

藤田嗣治 異邦人の生涯 近藤史人

後世の人から見ると天才クラシックの作曲家や画家は独創力に優れ鑑賞する者を圧倒するが、どういう訳か巨匠同士の間では互いに認め合わないことがままある。 例えば藤田嗣治は黒田清輝と画法が合わず竹内栖鳳にも受け入れられず佐伯祐三とも没交渉を保ち独り…

カラヴァッジョ 殺人を犯したバロック画家 ペーター・デンプ

支倉常長が伊達政宗の命で慶長使節として教皇パウロ5世に謁見したのは1615年。 本書によると、カラヴァッジョの絵に嫌悪感を覚え焼き捨てるように支持したのがパウロ5世ということらしい。 カラヴァッジョが描く聖人像を忌み嫌う教皇と彼の天才性を疑わない…

時代を語る 林忠彦の仕事

瞬間を切り取り映画のスチール写真のように、その一枚は時の刻みを忘れて永遠に語りかけていました。 林忠彦がいなかったら、この写真は生まれなかった。 太宰文学の生命力を今に伝える一枚ですね。 総動員令の中の日本と占領下の日本、逞しく生きる日本人を…

清方の松

昔、東海道戸塚の並木道に「清方の松」という大木があったらしい。 お軽と三平の道行の段「ここは戸塚の石高道」で御馴染みの舞台で安藤広重の東海道五十三次の中にも、松並木の遠見の富士が見えるとして有名だが現在はその面影はなく、過去の夕霧の中に伝説…

奇蹟の画家 ★ 石井一男

大して能力はないが好奇心だけは旺盛、それ故、新しい発見があれば、どうしても参考文献を読みたくなる。 通り過ぎてたはずの記憶のきれはしが流れの杭にひっかかっていた。 流れの杭に引っ掛かっている想い出がある 何処までも溯っていけるような錯覚を覚え…

ヴォルガの舟ひき イリヤ・レーピン

イリヤ・レーピンといっても日本での知名度はどの程度のものか知らない。 しかし、解説にはこのようにある。 ロシアの画家のうち誰ひとりとして、レーピンほどの栄光を生前に得た人はいないと言われ、その美術界における地位は、文学界のレフ・トルストイに…

「ダビデの星」を拒んだ画家フェリックス・ヌスバウム 大内田わこ

1904年12月11日、ドイツ系ユダヤ人として生まれ、1944年8月9日、アウシュビッツで死亡した画家フェリックス・ヌスバウムと言っても知らなかった。 父フィリップはドイツに対する強い愛国心の持ち主で、第一次大戦でドイツ軍兵士として従軍、一級鉄十字章を受…

残酷美術史: 西洋世界の裏面をよみとく 池上英洋

『拷問全書』『日本死刑史』など読んでいると何ゆえこんな本が読みたいのか、 エロ本を読むのに似て、あまり堂々とは読めない。 人類史は殺戮の歴史と言ってもいい。 有史以来、想像力の全てを注いであらゆる拷問を考案してきた。 そのバリエーショの広さは…

モンパルナスの灯―モジリアニ物語 M.ジョルジュ=ミシェル

何とも七面倒くさい本だった。 小説という形態をとっているが、芸術家を題材にした外国文学にありがちな、哲学的な会話が多く、通常では考えられないような単語が頻繁に出て来る。 読解力の限界で肩が凝るばかり。 それより何より、モジリアニの経歴が主題で…

ゴッホ〈自画像〉紀行 木下長宏

フィンセントが『炎の人ゴッホ』と呼ばれるようになのは56年制作のハリウッド映画に拠るところが大きいらしい。 主演はカーク・ダグラス、確かに自画像など見ると、この当時はダグラスが適役のように思うしまた良く似ている。 本書は40点を超える自画像に焦…

吾輩は猫画家である ルイス・ウェイン伝 南條竹則

文学作品で猫と言えばまず漱石、他に内田百間の『ノラや』萩原朔太郎の『猫町』なども有名だが、その漱石の『吾輩は猫である』の一説に以下のようなくだりがある。 「やがて下女が第二の絵葉書を持って来た。見ると活版で舶来の猫が四、五疋ずらりと行列して…

原田泰治ART BOX ふるさと日本百景

原田泰治さんとはこんな絵を描く人です。 http://www.taizi-artmuseum.jp/ 一度はどこかで見られたこともあると思うが、無くなりつつある日本の原風景を描くという点では故谷内六郎さんと共通したところがある。 唄でいうなら『ふるさと』というイメージでし…

ゴッホとロートレック 嘉門安雄

ロック界には昔から「27クラブ」というのがあるが、画壇には「37クラブ」というのがあるのだろうか。 ラファエルロ、カラヴァジョ、ヴァトー、ゴッホ、ロートレック、モディリアーニ、そして日本では菱田春草、今村紫紅。 モディリアーニと今村紫紅の36歳を…

春画にみる色恋の場所 白倉敬彦

江戸期という時代は現在のように住環境が整っていないためか、色恋に関しかなり抵抗感がなかったように思われる。 開けっ広げとまでは言わないが性風俗にはかなり寛容だ。 誘うのはいつも男とは限らず大店の女将などは奉公人などを捕まえては楽しんでいた。 …

佐伯祐三の晩年 衝撃の真実 白矢勝一

本書は佐伯祐三の伝記本ではなく、歿後、佐伯と共にフランスで過ごした友人たちが佐伯の死をどう書き残したかを照合し、何が真実なのかを追及した眼科医の論文のような本になっている。 『衝撃の真実』なんていう陳腐なタイトルは嫌いだが、いったい佐伯祐三…

クリムト―世紀末の美 講談社文庫―文庫ギャラリー

1860年生まれの作曲家、グスタフ・マーラーと1862年生まれの画家、グスタフ・クリムト、その両者と深い関係になり、結果的にマーラーと結婚した女性がアルマ・シントラー。 と言っても私はまったくこの女性を知らない。 クリムトと言えば絢爛豪華な金粉作り…

カミーユ・クローデル 極限の愛を生きて 湯原かの子

昨今、不倫、浮気、ゲスだと世の中はかまびすしいが何も不倫は今に始まったことではないことぐらい誰もが承知している。 ヨーロッパでは王侯貴族でさえゲスなる不倫は珍しくもなく、ましてやハリウッドでは不倫がないほうが珍現象でさえある。 ただひとつ、…

劉生の死 岩田 礼

劉生日記は有名だが、今日、この本の存在は殆ど忘れ去られたかのようだ。 以前から、購入の機会を伺っていたが、私の知り得る限り大阪でこの本を置いている古書店はたったの一軒。 しかし、それよりAmazon価格の方が安かったのでまずは手に入れ良しとした。 …

悲劇の9日女王 ジェーン・グレイ  桐生操

近年、日本でも俄かに脚光を浴びるようになって来た一枚の絵。 それが、この本の表紙しになっている。 『レディ・ジェーン・グレイの処刑』 以前から気になっていた絵画だが、最近、この絵は実在の物語を主題に書かれていると知ってインフルエンザも吹っ飛ぶ…

泥まみれの死 沢田教一ベトナム写真集

全世界に衝撃を与えたサイゴンのアメリカ大使館前で自らガソリンを被って焼身自殺したベトナム人僧侶の映像を見たことがある人も多いと思うが、調べてみると、あの日は1963年6月11日だったとか。 時は南ベトナム初代大統領ゴ・ディン・ジエム政権下。 独裁国…

女たちが変えたピカソ 木島俊介

ブックオフで見つけ、タイトルに惹かれて買ってしまったが、当初、ピカソ絵画の変遷と愛憎入り混じった男女劇みたいなものを想像していたのだが、主体はあくまでも画法であって人物に非ず。例えばこんな記述。 愛はいつ時を占めるのか。時はいつ美となるのか…

村山槐多全集

そもそも画家村山槐多を知っている人など見たこともないが、私自身、彼の名を初めて知ったのは平成25年、入院先の病床の上だったような気がするが、さて、それすらも定かではなくなった。 健診、食事以外、さしてやる事の無い退屈病に罹っていた私は病床でも…

藤田嗣治 本のしごと 林洋子

本来、美術や絵画には門外漢の私がこんな本を読んでもあまり意味がないのだが、古書市で見つけ、勢いで買ってしまった。 藤田の80年を超える生涯で、日本やフランスなどで関わった書籍、雑誌を対象に表紙絵や挿絵、新たに公開された旧蔵書、または国内の公共…

挿絵画家の鬼才 岩田専太郎

昭和期の挿絵画家の最高峰にして天才と言えば、まず岩田専太郎だろう。 今日、この平成の世にあっては彼のような画法を見ることは全く無くなってしまったが、それだけに去って久しい昭和の郷愁を呼び起こす。 親の才能を引き継いだわけでもなく、ましてや遺…

もっと知りたい ミュシャの世界

私にとって好奇心の対象となる人物、それは、何を残したかというよりは、どう生きたかという方に重点が置かれる。 そういう意味では大芸術家ゲーテも乞食行脚の辻潤も同列と考えている。 で、今回の対象者はアルフォンソ・ミュシャだが、この一見、男だか女…

黒の画家フランシスコ・ゴヤ ジュリア・ブラックバーン

私にとっては少し難しい本だった。 美術史は専門外だがゴヤが生きた時代には一方ならぬ興味がある。 スペインの独立戦争などをどう見ていたのか、ゴヤに付いてはもっと勉強したいという欲求が湧いてきたが果てさて今後どうするか。 ゴヤは47歳以降82歳で死ぬ…

ひろしま美術館 大沢寛三郎

私が美術の本を読んでいるからと言って、決して絵画に開眼した訳でもなんでもない。 まあ、簡単に言えば、ただ何となくといったところだ。 結局のところ、それほど他意があるわけでもなし、読み終わっても大抵の感想は「ふん・・・、なるほどね!」と言った…