居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

昭和文学

八疊記 里見 弴

毎年、今頃、といふのは、いま現に庄策が筆を執ってゐる十二月の上旬を指すのだが、今頃になると、高島易斷、九運暦の讀賣りといふのが、横町の辻に、路地の裏に、きまって爺むさい皺枯聲をふり絞り、不器用な節などつけて、 「え~、子の年は、・・・干支頭…

仮装人物 徳田秋声

妻を亡くし老境に差し掛かった作家庸三、作家志望で多情気質の愛人葉子、二人の腐れ縁のような物語だが、まあ、とにかく読み辛い。 徳田秋声といえば明治・大正・昭和と活躍してそれなりに有名な作家だと思うが、今日、それほどには読まれない理由が一読して…

わたしが・棄てた・女 遠藤周作

遠藤周作の小説にしては下卑たタイトルだと思ったが、逆にそれが興味を誘い触手を伸ばしてしまった。 主人公の大学生吉岡努はなんともいけ好かない男で性欲の捌け口から純粋な森田ミツの操を奪う。 一見、凡俗で愚鈍の人間、教養もなく特別魅力のない田舎娘…

娘と私 獅子文六

まるで原稿用紙1000枚ほどの作文を読まされたような気分だ。 親子の私小説だが、文体としてはあまり上手いとは思えなかった。 しかしこの小説が昭和36年、NHK朝の連続テレビ小説第1号となった作品らしいが、私は見た記憶がない。 書かれた時期は昭和28年から…

和解 志賀直哉

自分の親が物書きだったらよかったのにと常々思っている。 生前、父は経歴や想い出を何も書き残さなかった。 実母との激しい確執があったとは語っていたが、それがどのような原因に拠るものか今となっては知る由もない。 そこへいくと近代作家は私小説や随筆…

乙女の港 川端康成

20歳前後だったと思うが、ひたすら川端康成ばかりを読んでいた時期があった。 しかし、22歳で司馬遼太郎を知ってからというもの、まるでバトンタッチしたかのように川端文学から遠のいてしまった。 以来、もう川端を読むことはあるまいと思っていたら、今ま…

圓太郎馬車―正岡容寄席小説集

山本有三原作で昭和13年制作の『路傍の石』を観ると珍しく鉄道馬車の動画が見れるが圓太郎馬車とは何ぞや・・・? 鉄道馬車はレール上の客車を馬が引っ張るのだが圓太郎馬車は道路上の客車を馬に引かせるものらしい。 明治から大正にかけて圓太郎馬車、つま…

天皇の料理番 (上・下) 杉森久英

著者は既に故人となっているが、どういうわけか近年、この原作を元にしたテレビドラマが放映された。 杉森久英は伝記文学を得意とする人で私も過去、何作か読んでいるが『天皇の料理番』はたまに古本屋で見かける程度の絶版本で、先日、復刻版が出ているのを…

花笑み・天上の花 萩原葉子

当然のことながら昭和30年代から40年代にかけて明治生まれの著名人が多く亡くなっていった。 遠く日清戦争を子供ながらに記憶している世代の方々だ。 私にとっては幼少期から少年期に移行していくこの時代、ただ、若さだけが売り物の、盆暗少年に過ぎず、文…

あひる飛びなさい 阿川弘之

本題を前に米内光政と言えば海軍大将にして総理大臣まで務めた国家の重臣で終戦時、鈴木内閣の下で海軍大臣を務め阿南陸相と激しく対立した人物として知られている。 その『米内光政』の伝記本を書いたのが同じ海軍の後輩で所謂、ポツダム大尉と言われる阿川…

卍 谷崎潤一郎

この有名な本は昭和3年当時に書かれた小説らしいが、当時においてはレズビアンという概念はどのように庶民に受け止められていたのか、文学ではよく男色を扱ったものはあるが、女色という言葉があるのかないのか知らないが、その手の本を読んだこともなければ…

美しさと哀しみと 川端康成

最近、『文豪はみんな、うつ』という本があることを知った。 まだ、未読だが興味ある題材なのでいずれ読んでみたいと思っているのだが、果たして川端康成がうつだったかどうかは別にして、川端が名作を次々に発表していた昭和30年代、たとえば『眠れる美女』…

青空娘 源氏鶏太

源氏鶏太は自伝『我が文壇的自叙伝』の中でこのように書いている。 「ときどき私は、自分の作品で死後読まれる作品があるだろうか、と思ったりすることがある。まして、死んでしまえばそれまでであろう。それが大方の大衆小説作家の運命とわかっていて、ちょ…

肉体の学校 三島由紀夫

自殺直前の有島、芥川、太宰の評伝には必ず女が出てくるが、何故か三島には、それらしき女性は出てこない。 専ら、右翼、楯の会、自決である。 三島と言う人はいったい、どの程度、女性経験があったのだろうか。 この小説は恋の駆け引きをメインに書かれてい…

鍵 谷崎潤一郎

『鍵』とは何の鍵なのか全く予備知識のないまま買ってしまった。 果たして、それが却って良い結果の読後感だったかも知れない。 端的に言えば夫婦の性愛を謳っているのだが、谷崎が取った手法が実に面白い。 夫はカナで妻は平仮名を用い日記を書く。 互いが…

カレーライスの唄 阿川弘之

ポツダム大尉という言葉があるが、ポツダム宣言受諾後に階級を一つ進級させることで、阿川弘之は支那方面艦隊司令部附として終戦を迎え、この、ポツダム大尉として焼野原となった郷里広島に帰った。 その後、志賀直哉に師事して作家になるのだが、本題を前に…

最高殊勲夫人 源氏鶏太

私の最近の読書傾向と言えば専らノンフィクションか伝記評伝の類。 推理小説やエンターテインメント系の本はあまり読まなくなってしまった。 ある面、堅苦しいったらありゃしない。 そこで閑話休題のように時折、手にするのがちくま文庫なのである。 まるで…

ぽんこつ 阿川弘之

例に拠って筑摩文庫、ユーモア小説の復刊、阿川弘之作品の第二弾である。 思うに、昭和30年前後のこれら大衆小説は殆どが絶版の憂き目にあっていることは間違いない。 例えば今日、石坂洋次郎などを読む人がいるだろうか。 おそらく本人たちも将来、自分らの…

芥川追想

追悼文だけで編纂した岩波文庫というのが嘗てあっただろうか! この手法なら明治以来、多くの文豪の死を、それぞれ一冊の本に纏め、いくらでも上梓できる。 芥川に限らず、是非、取り組んでほしいテーマのように思うが。 しかし、何故今回、芥川だったのか。…

妻への祈り - 島尾敏雄作品集

最近、梯久美子(かけはし くみこ)というノンフィクション作家に興味を持っている。 戦後生まれの55歳だが、女性には珍しく栗林中将を題材に本を書いたことが私の触手を動かした。 その梯久美子氏が『狂うひと ─「死の棘」の妻・島尾ミホ』という本を刊行、…

蜜蜂・余生 中勘助

年間を通して、中勘助の『銀の匙』だけで国語の授業を行うという、一風変わった中学教諭の話しを聞いたことがある。 教科書を使わず『銀の匙』一冊あれば、こと足りると先生はテレビで言っていたが、そんなことが可能なんだろうか、私には解らない。 今や中…

死の棘 島尾敏雄

それもこれも、梯久美子が去年出版した大著『狂うひと ─「死の棘」の妻・島尾ミホ』を読むというミッションに駆られたことに他ならない。 『妻への祈り - 島尾敏雄作品集』『海辺の生と死』と読んで、 今回が第三段『死の棘』ということになる。 しかしまだ…

末の末っ子

昭和ファミリー小説の決定版とあるが確かに面白い。 まず、タイトルがいい! 『末の末っ子』、つまり予定外の妊娠出産だったというわけだ。 阿川弘之氏には三男一女の子があり、その三男誕生が51歳の時とある。 まるで孫のような年齢差の子供が産まれ、周囲…

上海 横光利一

織田 作之助 昭和22年1月10日 横光 利一 昭和22年12月30日 菊池 寛 昭和23年3月6日 太宰 治 昭和23年6月13日 この時期、文壇はたった1年半年足らずの間に4人もの流行作家を亡くしている。 しかし今日、織田作、菊池 寛、太宰 治の再燃はあっても横光利一ブー…

わが町・青春の逆説 織田作之助

大雑把に言うなれば新潮文庫と岩波文庫の違いはこうなるか! 新潮は自然淘汰文庫、岩波は復刊復刻文庫。 平たく言えば新潮は読まれなくなった本は容赦なく切り捨てられ岩波は切り捨てられた近代文学の復興に努めている。 そういう意味では確かに岩波の価値は…