愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

日記・手紙・手記・随筆(読書録)

長崎日記・下田日記 川路聖謨

幕末史を紐解くうえでは重要な人物とされる、勘定奉行川路聖謨。ロシア帝国海軍プチャーチン中将と、日露の国境を定めた人物として名高い。その川路が著した『長崎日記・下田日記』の存在は、以前、川路の歴史小説を読んだ関係で知ってはいたが、まさか巡り…

ベルリン終戦日記―ある女性の記録 アントニー・ビーヴァー

あらゆる本を読んでいてレイプほど汚辱に満ち卑劣な行為はない。私としては避けて通りたい分野だが、レイプ・オブ・南京だとか、レイプ・オブ・ベルリンという単語はよく見かける。ドイツの終戦間際、ベルリンで何が起きたかは想像に難くない。独ソ戦で、ソ…

神屋宗湛の残した日記  井伏鱒二

本書を購入した時には全編「神屋宗湛の残した日記」かと思っていたが豈図らんや、表題作以外はエッセイだった。中でも驚いたのは「普門院の和尚さん」という一遍で、和尚さんとは幕閣・小栗上野介など、小栗家歴代の墓を守る僧正で、昭和七年十二月、上野の…

言わなければよかったのに日記 深沢七郎

以前から、この人の名こそ知れ作品を読んだのは『笛吹川』しかない。もちろんギタリストであったことも知らない。然し何と言っても深沢氏を有名にしたのは『楢山節考』だろう。昔、緒形拳主演の映画を観に行ったことがある。山に捨てられるお婆ちゃん役を演…

トーマス・マン日記 1933ー1934

トーマス・マンの日記は5巻あるらしいが、私が読んだ本書は第1巻になる。 併し、こんな本を読む人など先ずいないだろう。 それもそのはず、かなり専門的で難しい。 偶然、古書市で見つた1933ー1934年の第一巻は、ヒトラー政権が勃興した年と重なり興味がわい…

怪しい来客簿  色川武大

昔『麻雀放浪記』という映画があったが見ただろうか。 原作は阿佐田哲也だが、このペンネームは徹夜麻雀なんかして朝を迎えてしまったことに由来する「朝だ徹也したな」みたいなことらしいが、とにかくギャンブル好きで金があれば直ぐ博打とくる。 本人は小…

レーナの日記 エレーナ・ムーヒナ

この日記はレニングラード包囲戦で市民250万もの人が飢餓と酷寒の中、必死に生き延びようとする記録で、その一人、僅か16歳の少女が書き残したものだ。 包囲された期間は872日、餓死者80万、爆撃、砲撃による死者20万、その封鎖下の市民生活の模様を詳細に伝…

追懐の筆-百鬼園追悼文集  

本書は漱石と、その門下の人たちの交流を描きながら、今は亡きそれらの人たちを、哀惜を込めて思い出を綴る追悼文集のようなものだが、自らの若かりし頃など思い出すと、寂しさもひとしおだろう。 鈴木三重吉の霊前で思いもかけず号泣したこと。 宮城道雄の…

貧乏は幸せのはじまり 岡崎武志

よく、起きて半畳寝て一畳なんていうが、まさしく我が家のことで、本書は貧乏長屋育ちでありながら、遂に幸せを掴めなかった私をよそに「貧乏は幸せのはじまり」ときたもんだ。 尊敬する古書趣味で雑学の大家、岡崎武志さんの本とあって以前から書棚を暖めて…

フランス革命下の一市民の日記 セレスタン ギタール

私は歴史上の人物の日記を読むのが好きだ。 然し、面白いかと訊かれれば、ちっとも面白くないと答える。 では何故読むのかといえば、やはりその時代を生きた本人の生の声という意味では、一級資料だと思うので、何が書かれているか非常に興味があるからだ。 …

ブランコ・ヴケリッチ獄中からの手紙 山崎淑子

20年前ほどだったか、今は潰れてしまった古本屋で偶然見つけた、尾崎秀実の『愛情はふる星の如く』という本を見て、目が点になった。 尾崎秀実とは、ひでみと読むのではなく「ほつみ」と読む。 言うまでもなく近衛内閣のブレーンとして、政界・言論界に重要…

ナポレオン戦線従軍記 フランソワ ヴィゴ・ルション

確かチャーチルはこんなことを言っていたはず。 これからの戦争は、ナポレオンのように馬で全軍の先頭に立ち、指揮命令するのではなく、指導者は暖かい執務室の椅子に座り、ただボタンを押すだけで決着がつくような、そんな時代になってくるだろう。 ホント…

随筆-本が崩れる  草森紳一

この本、タイトルに騙された。 全編、「本が崩れる」だと思っていたら大間違い。 始めこそ風呂に入ろうと思い浴室に入ったら、外側から積んであった本が怒涛の如く倒れ、ドアを塞ぎ出れなくなったという話で、そら来た、面白そうだと思ったが運の月。 単なる…

獄中十八年 徳田 球一 (著), 志賀 義雄 (著)

徳田球一、志賀義雄なんていったって今の時代、共産党員ぐらいしか知らないだろうが、だからと言って私は党員ではない。 ただ歴史を学ぶ者としては相反する勢力を読むのも大事。 古くは家康と光成、開国派と攘夷派、勤王か佐幕か。 大久保と西郷、薩長と自由…

野田日記 野田 毅

書店へ行って、日記、手紙などの背表紙を見ると必ず手に取る私だが、このシンプルな表紙を見て何のことやら分からず、野田毅とは誰なのか帯を読んでみるに百人斬りと書いてある。 つまりあれか、支那事変の時の将校の日記か。 そんなものが世にあるとは知ら…

エレーヌ・ベールの日記 エレーヌ・ベール

この日記の存在を最近まで知らなかった。 「アンネの日記』との違いは、一室に閉じ困って隠れているのとは違い、エレーヌ・ベールはドイツ軍占領下のパリで、ユダヤ人証明の腕章を付けていれば、それなりに自由行動が許されていた点だろうか。 ソルボンヌ大…

妻と私 江藤 淳

この本ばかりはタイトルを見ただけで、事前に内容が予測でき、のっけから暗い気持ちにならざるを得ない。 何ゆえ、そのような憂色を以って本に向かい合うか。 江藤さんは、夫人の病死に衝撃を受け、7か月後、後を追うようにして浴室で頸動脈を切った。 覚悟…

敗戦前日記 中野重治

先ず、646ページもある本書は、1994年に中央公論社から発売されたらしいが、今日まで文庫化されないのは、売れないから、読む人がいないから、または中野重治って誰ってなところだろうか。 まあ、読むには読んだが腕が疲れることは甚だし。 一貫して書かれて…

黒田日記

明治、大正期に活躍した日本洋画壇の巨匠・黒田清輝は、明治17年フランス留学中の2月9日から約40年間に亘って日記を書き溜めている。 その黒田画伯が亡くなったのは大正13年7月15日。 当時の新聞を見ると。 「黒田清輝子絶望/昨日からカンフル注射で辛うじて…

果てなき便り 津村節子

津村節子さんには、夫吉村昭氏の闘病生活を綴った『紅梅』という作品があるが、本書は二人の往復書簡などから、帰り来ぬ数々の思い出を追悼記のように纏めあげたもので、残された者の哀しみが読む者に伝わってくる。 二人は学習院の文藝部で知り合ったようで…

もうひとつの日露戦争 新発見・バルチック艦隊提督の手紙から コンスタンチン・サルキソフ

何年か前の新聞欄で司馬さんの『坂の上の雲』はトルストイの『戦争と平和』に匹敵するほど面白いと書かれていたが、それは本当だと思う。 その司馬さん、はたしてバルチック艦隊司令官だったロジェストウェンスキー中将の手紙が残っていたと知っていたかどう…

「黒縮緬」西条八十

『黒縮緬』は西条八十25歳ぐらいの随筆とあるから大正6年頃か。 一杯引っ掛けたあと、浅草六区に芝居を見に行った帰り、二人の女に声を掛けられた。 赤の他人だが、先ほどまで同じ芝居小屋に居た女で西条のことを「やなぎ、やなぎ」と言って呼び止め食事に誘…

いつまでもいつまでもお元気で 知覧特攻平和会館

毎年8月になると決まって終戦特集のような番組がNHKで組まれるが、特攻隊に関するものを見たのは、かれこれ30年以上前の話か。 その中で、ある隊員が両親に宛てた最後の手紙に痛く感動したことがある。 はっきりした内容は忘れたが、こんなことが書かれてい…

死刑確定直前獄中日記 永山則夫

永山則夫に関する本と言えば何を読んだか。 ・死刑囚 永山則夫 佐久隆三 ・裁かれた命 死刑囚から届いた手紙 堀川恵子 ・死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの 堀川恵子 ・異水 永山則夫 永山事件に関してはいろんな面で感心を持った。 確かに、その生い立ち…

随筆集 明治の東京 鏑木清方

明治生まれの人は漢学の素養もあってか名文家が多い。 「半世紀ともなると難福交々(こもごも)、一見何の奇もなく無為に過ぎたようでも、越えて来た山河は険しい、祖母は神信心の篤い人だったので、一家が今日無事を楽しむのもその余徳であろう」 昭和27年2…

ゴーギャンの手紙 東 珠樹訳

1895年 何と言っても日記や手紙などは、本人が書いているだけあって第一級資料なのだが、書き送った全ての手紙を読むのはかなり骨が折れる。 現在ではメールやラインなどがあるので、あまり手紙を書くことがなくなったが、仮に書いたとしても、多くて便箋5枚…

心筋梗塞の前後 水上 勉

既に故人だが、水上勉さんが生前、心筋梗塞を患ったとは知らなかった。 古本屋の書棚でこの本を見つけ同病相憐れむの心境から購入、私も6年近く前、突然、胸の痛みを訴え心筋梗塞を発症した縁とでも言うか、水上さんのケースを知りたくなった。 よく知られる…

回想 日記 ノート 美知子 静子 富栄

晩年の太宰治の周辺には3人の女性が登場している。 正妻の津島美智子、『斜陽』のモデル大田静子、心中相手の山崎富栄。 私は太宰が書いた作品よりは、彼を取り巻く人たちが残した関連作品を読むのが好きで、友人知人の著作は資料として貴重な証言で頗る好奇…

栗林忠道 硫黄島からの手紙 栗林忠道

以前「なんでも鑑定団」に出演している鑑定士がこんなことを言っていた。 「物は欲しがっている人の所に集まる」 なるほど、確かに古本屋巡りをしていると探してもいないのに思はぬ書籍と巡り合うことがある。 まるで私を待っていたかのように。 何年前だっ…

ロッパの悲食記 古川緑波

古川緑波は昭和36年の1月16日に亡くなっている。 もう大変な美食家でこの本を読む限り、仕事の話しや家庭のことなどは殆ど出てこない。 とにかく食べて呑んで、呑んで食べての食道楽。 人気絶頂の頃で、あまり金銭的に困った様子もなく戦時中、食糧難の時代…