居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

日記・手紙・手記・随筆

日日雑記 武田百合子

武田百合子は夫泰淳の死から文筆活動を始めたので極めて寡作だが、作品の純度は高く日記文学者としての地位を確率している。 作家としての修行時代があったわけではないのに書き溜めていた日記が評判を呼び著述家として世に出た。 確かに評判通り天性の才が…

ちんちん電車 獅子文六

昭和30年代、子供のお小遣いは、おそらく1日10円と相場が決まっていたのではなかろうか。 その10円でお好み焼きが食べれた時代、まだ至る所、網の目のようにちんちん電車が走っていた。 キャラメル、ガム、チョコレート、アイスクリーム、そしてお菓子の量り…

双六で東海道 丸谷才一

以前、BSの『原宿ブックカフェ』という番組で紹介されていたので、なら読んでみようかと思い、早速手に取ってみたが丸谷才一の博覧強記だけが印象に残る本だった。 テレビ解説者が言っていた「遅刻論」の章だけを頼りに購入したようなものだから、その触りの…

怠惰の美徳 梅崎春生

祖父は明治の終焉を知っている。 父は大正の終焉を知っていた。 そして私は昭和の終焉を知り、今また平成の終焉があと1年に迫ったことを知る。 昭和が終わろうとしていたあの日、平成生まれが居なかったあの時代。 昔は三代といえば明治・大正・昭和と言われ…

ロッパ随筆 苦笑風呂 古川緑波

ロッパの随筆を読むのは『ロッパの悲食記』に続いて2冊目だが、この人は本当に美食家だったんですね。 前回に比べて、それほど食の話しは出てこないが、それでも飯のネタは尽きない。 それをエネルギーにかどうかは知らないが、脚本家でもあり読書家だったロ…

そうか、もう君はいないのか 城山三郎

昭和51年、『落日燃ゆ』という終戦ドラマを見た。 文官中、ただひとり絞首刑となった元首相広田弘毅の生涯を描いた物語で、原作は吉川英治文学賞を受賞した名作。 広田役を演じたのは名優滝沢修で素晴らしい作品だった。 それが城山作品に触れた初めての出会…

犬が星見た―ロシア旅行 武田百合子

昭和44年に約1ヶ月かけて旧ソ連領を旅した時の紀行文、或は日記といってもいいが、1日の出来事を平均して12ページぐらいは書いている。 どこを読んでも「ホテルへ帰り、日記を書く」というくだりはないが、見聞したこと使った料金などを実に細かく記載して…

明治の東京 随筆集 鏑木清方

鏑木清方の随筆『明治の東京』という本を読むと、さすがに明治生まれの人、漢学の素養もあってか名文が多い。 半世紀ともなると難福交々(こもごも)、一見何の奇もなく無為に過ぎたようでも、越えて来た山河は険しい、祖母は神信心の篤い人だったので、一家…

母の恋文 谷川徹三・多喜子の手紙 谷川俊太郎編

大正版、西野カナと言っては失礼だが、まあしかし、会いたい、切ない、夢にも会いに来てと乙女心炸裂の手紙と言えばいいだろうか。 現代でも純愛という言葉が生きているかどうか知らないが、大正の昔、意志の伝達が殆ど手紙という手段しかないとなると、それ…

一茶の日記 北小路健

小林一茶は現在の長野県信濃町柏原に宝暦十三年(1763)五月五日に父弥五兵衛、母くにの長男として生まれている。 身分は中農の上で本名は弥太郎、三歳で生母と死別、八歳の時に継母が来て、二年後、腹違いの弟仙六が生まれる。 その後の弥太郎は継母に虐げ…

富士日記 (上・中・下巻) 武田百合子

昭和39年7月から41年9月まで。 佐田啓二、谷崎潤一郎、高見順、三木露風、山田耕作の死亡記事あり。 当時、私は小学生だけあって全く記憶にないがリアルタイムで書かれているだけに生々しい。 かなり記憶力がいいのか、一日の買い物の値段から朝、昼、晩と何…

「小津安二郎日記」を読む: 無常とたわむれた巨匠 都築政昭

随分と長い時間を要してしまった。 偉大な芸術家の心の奥底を覗くというのは大変だ。 小津さんという人は本当はかなり淋しがりやで孤独を嫌った人だったのだろう。 しかし仕事に関しては徹頭徹尾、プロフェッショナルに徹する。 大正時代、赤木桁平という人…

獄中手記 磯部浅一

何で私が磯部浅一の『獄中手記 ・行動記』みたいな本を読まなければいけないかってなもんですね。 そもそも磯部の思想を理解するような頭脳も行動力も持ち合わせていません。 二二六に関しては過去、かなりの本を読んできたが五一五ほど事は単純ではない。 …

ニジンスキーの手記 完全版 ヴァーツラフ・ニジンスキー

手記は第一次大戦後の1919年、29歳の頃に書かれたものだが、この若さで既に精神を病んでいる。 ニジンスキーは、驚異的な脚力による『まるで空中で静止したような』跳躍、中性的な身のこなしなどにより伝説となったとあるが、彼の何がどう天才的なのか無論、…

妻への手紙―藤村 静子よりの手紙を添えて

写真で見る島崎藤村という人は温厚な紳士、理知的で、これぞ文豪という風貌であり、詩人としての才能も素晴らしく、一見、非の打ちどころがなさそうな人物に見えるが、生活力、品行、世間的な評価を考えると、やや問題がある、いや、あったのかも知れない。 …

クラクラ日記 坂口三千代

著者、坂口三千代は坂口安吾の妻で「クラクラ」とは安吾没後、三千代が開いたバーの名で命名者は獅子文六。 その三千代が10年にも亘って書き連ねた安吾の思い出の記が本作だが、臨終当日のことが詳細に書かれているので抜粋したい。 そして十七日の朝、茶の…

夢二日記〈1(明治40年~大正4年)〉

幕末以降、多くの人の日記が刊行されているが、大別すると二種類に分かれる。 死後、公開されることを想定して書かれている場合と、そうでない場合。 例えば啄木のローマ字日記の中には、他人に読まれてはまずいという記述がある。 女郎相手の話しなので、こ…

ハリス 日本滞在記 下

苦心惨憺読了、どうもこの本は学術的色合いが強い日記で一般向けではない。 しかし、そこはそれなり、ハリスが洞察する日本の国状や人となりは理解できたと思う。 さしずめハリスの観察はと言うと、一見、幸福そうに暮らしている庶民を見て! 私は時として、…

ハリス 日本滞在記 中

私が、初めて伊豆の下田に降り立ったのは確か昭和60年の夏だと記憶するが、一週間ばかり仕事で行ったのを皮切りにすっかり当地を気に入り、以来、何度となく足を運んでみた。 二度目の訪問は観光で、偶然にも黒船祭りの時期、米軍の軍楽隊演奏を中心に市内は…

ハリス 日本滞在記 上

実に重々しい本だ! 何しろ註釈が凡そ半分はあるかと思うほどで尚且つ文字が小さく旧漢字で書かれている。 古書店で見つけ先客が手に取ってペラペラ捲っていたのを目撃。 なかなかお目に掛かれない代物だけに相手が買わなければ即買いと思っていたが運よく我…

夢声戦争日記〈第7巻〉昭和20年

全くの偶然だが、以前、フォローしているTwitterの人のつぶやきを読んでいたら、古書市で『夢声自伝全三巻』を購入と書いてあった。 調べてみると昭和53年に講談社文庫から出ているらしいが、三巻で約1400頁ほどあるようで実に悩ましい。 私も何処かでこれを…

夢声戦争日記〈第6巻〉昭和20年 (後編)

ブロガーというのは決して仕事ではないが、こう毎日、記事を書いていると、疲れもするが、それはそれなりに楽しい。 しかしながら所詮は素人の域を出ないのであって文章の作成には苦労が絶えない。 そして今日も、まるで何かに憑りつかれたように書かねばな…

夢声戦争日記〈第6巻〉昭和20年 (前編)

さてと、全く苦心惨憺、何とか第6巻を読了。 今回は昭和20年1月から6月まで。 しかし、この本、実に読み辛い。 何しろ夢声先生、どういう訳か文章の送り仮名を平仮名とカタカナの両刀使い。 さらには死語となっているような漢字にルビも振ってないという始末…

夢声戦争日記 第5巻 昭和19年 (下)

夢声戦争日記、第5巻は19年7月から12月までの記述ですが、どうなんでしょうか、 10月頃まではのんびり生活しているようにも思えてしまうのですが。 当然の如く、同時代に書かれた日記などでは政治家は政局や国際情勢を、軍人は戦況を書くわけですが、我等が…

夢声戦争日記〈第4巻〉昭和19年 上

夢声日記、第四巻は昭和19年元旦から6月までなのだが、長編日記を読むと言うの些か難儀なものである。 ではと、この時期、戦火はまだまだ本土からは遠く、夢声は日々仕事に追われ、各地を慰問旅行しているばかりで、戦況の様子は分かりにくい。 既に食料難の…

夢声戦争日記〈第3巻〉昭和十八年

さて、第三巻である。 はっきり言って民間人の日記を読むというのは、あまり面白い作業とは言えない。 ひとつには知らない人が無数に出てくることにもある。 戦時中ということを考えれば軍人や政治家の日記の方が戦況や政争でこちらも一喜一憂するが、いくら…

夢声戦争日記〈第2巻〉昭和17年 下

さて、夢声戦争日記第2巻は昭和17年7月1日から始まる。 しかしである、徳川家では一向に戦争の気配が感じられない。 前編はまるで「夢声菜園日記」と見紛うような書き出しで、花が咲いた、アオガエルが来た、子供がトンボを捕まえたと何の変哲もない。 事態…

夢声戦争日記〈第1巻〉昭和16年・昭和17年 上

全七巻に及ぶこの日記は開戦当日から始まる。 著者は日清戦争が始まった明治27年生まれで、10年後の日露戦争、更に10年後の 第一次大戦、そして満州事変、日華事変、太平洋戦争と私たちの世代と違って戦争の表も裏もうんざりするほど見て来たと言っている。 …

太平洋航海記 キャプテン・クック

10年程前までは大規模な古本市へ行っても、さほど疲れを感じなかったものだが最近はどうも腰の具合が良くない所為もあってかじっくり陳列棚を見れなくなった。 それでも何故か、これという本はしっかり目に留まっているからおかしい。 『太平洋航海記』とあ…

夢二の恋文

詩人高村光太郎は千恵子ばかりを書き、萩原朔太郎は陋屋の中で隣り合う孤独に青ざめ、夢二は女に彩られた文章しか書かない。 そんな夢二が最も愛した女性はおそらく笠井彦乃だろう。 彦乃は細面の柳のような麗人で長髪、なで肩、理想のモデルでもあったよう…