居眠り狂志郎の遅読の薦め

未だ休読日に至らず

文藝・文壇史

堀辰雄よ、さようなら

昭和28年5月28日、堀辰雄死去。 「君にあつたほどの人はみな君を好み、君をいい人だといつた。そんないい人がさきに死ななければならない、どうか、君は君の好きなところに行つて下さい、堀辰雄よ、さよなら」 室生犀星の弔辞。 あれは、大正14年のことだっ…

絶望名人カフカの人生論 フランツ・カフカ

今日、我々がカフカ作品を手にすることが出来るのはナチスの迫害を逃れた2人のユダヤ人のお蔭らしい。 カフカ自身は死の直前、日記や手紙を含め全ての遺稿を燃やすように遺言していたらしいが、それを預かった親友のブロートは結果的に遺言を無視した。 ナチ…

太宰治の辞書 北村薫

先日、商店街のリサイクルショップに置いてある古本の事を少し書いたが、同じ商店街の花屋の店先にこれまた変わった取り合わせとでもいうように数十冊の古本が置いてある。 どれでも100円と超お買い得。 何で花屋に古本がと以前店主に訊いてみると、友達に頼…

逆光の智恵子抄―愛の伝説に封印された発狂の真実 黒沢 亜里子

著者の黒澤亜里子という人は1952年生まれ。 肩書きには沖縄国際大学文学部教授とある。 巻末の後書きに1985年とあるので女史、33歳の作品ということになるが、いやはや、大学教授というものは斯くも難しい文章を書くものかと呆れてしまう。 古本屋で見つけた…

苦悩の旗手太宰治 杉森久英

太宰関連の本はこれまで何冊も読んでいるが、この本には今まで知らなかったことが書かれていて少し驚いた。 著者の杉森久英という人は近年、テレビドラマでも話題を呼んだ『天皇の料理番』の作者でもあるが伝記文学の名手としても名の知れた作家で既に故人と…

犀星忌

犀星が亡くなったのは昭和37年の今日。 56年前ということか。 私はこの年の2月だったか3月だったか家庭の事情で東京から名古屋に越して来た頃で、時を同じくして犀星は72年の生涯に幕を閉じたわけだ。 朔太郎死して20年、どんな気持ちで生きていたのか。 そ…

ゴッホの手紙 小林秀雄

彼の名前は、ヴァンサン・ヴァン・ゴーグ。 彼は急いで店に這入る。 店では土人の矢だとか古風な鐵屑だとか安物の油繪だとかを賣ってゐる。 お氣毒な藝術家よ、君は今賣りに來たその繪を描いた時、君の魂の一と切れを入れたのだ。 薔薇色の紙の上の薔薇色の…

食魔 谷崎潤一郎 坂本葵

本題に入る前に著者に付いて少し触れたい。 膨大な参考文献一覧を見て、一体、何者なのかと略歴を読むと、何と昭和58年生まれの女性で東大文学部卒、同大学院人文社会系研究科博士課程修了とある。 私とは親子ほど年齢が離れているが、こんな子が我が娘なら…

僕の父はこうして死んだ 山口正介

私の書庫に並ぶ本は相対的に言えば、死にまつわる蔵書とも言えるかも知れない。 多種多様な職業、洋の東西を問わず様々な死を読んできた。 武将、志士、革命家、思想家、芸術家、政治家、軍人、画家、詩人、歌人、小説家、俳優、医師、冒険家、音楽家など。 …

愛の顚末 純愛とスキャンダルの文学史 梯久美子

『愛の顛末』とは、ややありきたりなタイトルだが、最近、私の中では赤丸付急上昇で一躍トップの座に躍り出た梯久美子作と聞いて、やはり買わずにおれなんだ。 帯にはこのようなフレーズが! こんなにも、書くことと愛することに生きた! その作家は以下の12…

父西条八十は私の白鳥だった 西条嫩子

何をきっかけにか忘れたが、20歳の頃、近現代詩と妙に肌合いの良さを感じた一時期があった。 中でも天才、萩原朔太郎の詩に痛く感銘を受けた私は、続けて立原道造、佐藤春夫、室生犀星、中原中也と読み漁り、そして辿り着いたのが西条八十。 私にとっては・…

女妖記 西条八十

本書は昭和33年、西条八十が66歳の時から書き始めた小品11編を収めた色懺悔のような本で、11人の女との情痴関係を告白形式で書き連ねたものだが、いやはや、西条先生は相当な艶福家であらせられる。 失礼ながら荷風も八十も、さして男前とは思えぬのが、今ま…

墨東の堀辰雄 その生い立ちを探る 谷田昌平

貯金額と違って読書量というのはどうもあてにならない。 貯蓄はその気になれば増えるわけだが読書は仮に一千冊読んでも、それに見合った知識が蓄積されるかと言えば少なくとも私の場合はその限りに非ず。 読んだ先から心太方式のように忘れてしまう頼りなさ…

詩人の妻 生田花世 戸田房子

著名な作家の自殺というのは他国と比べて多いのか少ないのか知らぬが、日本で夙に有名な自殺者と言えばまず以下の順になる。 有島武郎 (大正12年6月9日) 芥川龍之介(昭和2年7月24日) 太宰治 (昭和23年6月13日) 三島由紀夫(昭和45年11月25日) 川端康…

SHONAN逍遙―文豪たちが愛した湘南 桝田るみ子

以前泊まった藤沢の宿で貰ったマップに明治以降、如何に多くの著名人がこの辺り一帯に別荘、または家屋敷を構えていたか、その多さを知って驚いた。 広田元首相の妻静子さんが自害した広田家別邸、芥川、白樺派の逗留地、東屋などは鵠沼にあり、茅ヶ崎には団…

芥川龍之介―長篇小説 小島政二郎

嵐山光三郎は「文士の伝記はまず、死がその前提にある」と言っているがまさにその通り。 または「小説家の死は事件であるとも」。 これまで数多くの文士に関する伝記・評伝の類を読んできたが中でも一番多いのは太宰に関するもの。 太宰と関係した3人の女性…

虹の岬 辻井喬

確か初めて「若いツバメ」という言葉を使ったのは平塚らいてうと記憶するが。 明治41年、森田草平と例の塩原事件を起こした後、『青鞜』制作に入り、茅ヶ崎に移り住んで5歳年下の画家、奥村博史と同居したのを切っ掛けに友人たちに対して言ったのが「若いツ…

鎌倉のおばさん 松村友視

永井荷風は、女に対する欲望が枯れ果てた時、死を願ったそうだが、まあ、それも解らぬ話ではない。 男にとっては女あっての人生だとも言えるわけで。 人間社会に於いて芸術家は極端な例を仕事や実生活に持ち込むことがある。 故に、その取り巻きは否が応でも…

かの子繚乱 瀬戸内寂聴

瀬戸内寂聴という人は伝記文学の名手だ。どの本を読んでもこちらをぐいぐい引き込む。この『かの子繚乱』も傑作の一つだろう。 昭和の30年代だと記憶するが文豪谷崎に会いたいがため、舟橋聖一に仲介を頼んだと何かで読んだが、その谷崎の学生時代、同級生に…

檀 沢木耕太郎

昭和51年『火宅の人』がベストセラーになっていた頃の事をよく記憶している。 しかし、この小説が出るまで檀一雄という作家のことは知らなかったと思う。 私はまだ若く、明治生まれの作家が次々に世を去る瞬間を無為に過ごしていた。 『火宅の人』は完成まで…

滝田樗陰 - 『中央公論』名編集者の生涯 杉森久英

長い間の懸案がやっと解決したような気分だ。 あくまでも仮定の話しだが、もし私に文才あらば日本文壇史なるものを書きたいと永年、夢想して来たが、さて、肝心の主役は誰に据えるのか、一向に定まらぬまま月日だけを空費させて今日に至った。 暗中模索の数…