文章読本

『女たちへのいたみうた』金子光晴

時に歌人は女の尻を追い、画家は女の裸体を描き、詩人は心を女を開け放つ。 まあ、それはともかくも、金子光晴の『女たちへのいたみうた』は素晴らしい。 あゝ、けふもゆきずりの女たち、みしらぬ女たち、ことばもかはさずまためぐりあふ日もない女たち。う…

意地悪の大工

意地悪の大工の子などもかなしかり戦に出でしが生きてかへらず 啄木 う~ん、日露の役で戦死したいじめっ子を詠っているんですね。 死なれてみると苛められた記憶もなにか懐かしく思われているのか。 「そうですか、あの人戦死なさったんですか」 という啄木…

靉靆覚えず濡ひぬ 

坪内逍遥の日記を読むには現代人にとって苦痛に満ちている。 匹婦の衷情憐れむべし 談漸く贈与金の事に渉り 予が土産を与ふるに及びて 潸然(さんぜん)落涙 声を呑んで喜び謝す 予曰く 予は卿に対して表向きは無関係の人なり 毎月の贈与は仙子の志なり され…

幼年 田中冬二

幼年 柿の花咲いていたりけり そが下に幼きわれら散髪をする 機関車のやうに重きバリカンは 項にひんやりと冷たく触れ また何となく西洋のような匂いす やがて短く刈りあがりしに 母来たりて青き頭を撫し 胸をはだけ乳を滴らし呪して 虫に刺さるるなかれ 風…

蛸章魚願開運陰陽抱叶

獅子文六『娘と私』にはこんなくだりがある。 「あまり夫婦がご無沙汰すると、仲が悪くなるといいますから私の方から、押し掛けるかも、知れません、よろしくて?」 戦前の夫婦関係のことはよく分らないが当時の婦人雑誌には、 「中年の妻は赤い長襦袢を着て…

野晒 北原白秋

明治45年7月5日、東京原宿在住の北原白秋は隣家の年上の人妻、松下俊子と関係を持ち、夫の松下長平から姦通罪で告訴された。 翌6日、白秋は俊子と共に逮捕、馬車で市ヶ谷の未決監に拘留される。 その後、詠んだ白秋の詩。 野晒 死ナムトスレバイヨイヨニ命恋…

小町針

裁縫で使う待針には穴がないらしいが、この待針の由来は小町針にあるという。 どういうこと? 昔の川柳に曰く いかさまの 元祖は 小野の小町なり どうも「百夜通い」という伝説にその由来があるらしい。 自分に思いを寄せる深草少将に小町が、 「百晩、家に…

晡下出社

永井荷風の『断腸亭日乗』には“晡下”という漢字が頻繁に出てくる。 この言葉は今の広辞苑にも載ってない難解な漢字で、類語として「晡時」という字なら載っているが「晡下」はない。 小津安二郎の日記には以下のような記述がみられる。 「晡下出社、別に用も…